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6-パラレル番外編-ガチ兄弟
■「三里」は名字ですが今回は名前として書いています
阿南が十五歳のときに弟の三里は生まれた。
まさかこの年齢で弟が初めてできるなんて、当時はなんだかむず痒く、手放しで喜べたものではなかったが。
産まれてきた弟はそれはそれは可愛くて。
柔らかな頬に触れたら小さな手できゅっと指を握ってきて。
ああ、守ってあげなければと、阿南は兄としての自覚を自然と抱いた。
「おにいちゃん」
三里はすっかりお兄ちゃんっ子に育った。
両親よりも兄に抱っこをせがみ、お風呂に一緒に入りたがり、実家から大学に通う阿南がバイトで夜遅く帰ってみれば自分の部屋のベッドで寝ていたりすることもしばしばだった。
「おにいちゃん、だいすき」
ベッドの中で寝かかっていた兄の耳元で小さな弟はよくそう囁いていた……。
社会人となった阿南は実家を出て職場近くにアパートを借り、一人暮らしを始めた。
あっという間に年月は過ぎ去って三十一歳に。
二度目の引越し先である三階の角部屋に今は落ち着いている。
先月、飲み会で知り合って恋人になりかけの看護師が部屋に来ていた、そんなある日の夜。
「こんばんは」
三里がやってきた。
制服を着た男の子の突然の訪問に戸惑う看護師に口数の少ない阿南は「弟だ」と一言だけ説明し、彼女を部屋から帰した。
「お兄ちゃん、ごめんね」
ローファーを脱いだ三里は袖の余るネイビーのセーターからかろうじて覗く指先で眼鏡をかけ直し、にっこり、阿南に笑いかける。
「まさか彼女が来てるって思わなくて」
これまでにこういうことは何度もあった。
兄依存症の三里は阿南のことを時々見張っているようだ。
すっかり慣れっこで今更怒る気にもなれずに、阿南は、弟にコーヒーを淹れるためキッチンへ回ろうとした。
「あの女の人とせっくすする予定だった?」
三里が背中に抱き着いてきたので足を止めた阿南。
ぎゅっと、か細い指持つ両手がシャツを握り締める。
「あの人ともうした? よかった?」
「……三里、コーヒー淹れるから放せ」
「お兄ちゃん、いった?」
僕のときみたいにいけた?
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