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7-金曜日のレイトショー

「先生、映画見に行きませんか?」 セックス依存症の三里があんまりにもノーマルなことを言うので阿南は眉を顰めた。 「? 僕、何か変なこと言いました?」 「……いや」 映画はまさかのスプラッタホラーだった。 のっけから血飛沫の嵐、残忍極まりないシーンの連続。 しかも音が過剰にうるさい。 「どがぁぁん」「ばぁぁぁん」という効果音やら悲鳴やら怒号やら、鼓膜と神経が疲れてくる。 ちらりと窺えば三里は眼鏡越しに真剣にスクリーンを見ていた。 金曜日のレイトショー、制服姿で、いつも通り眼鏡をかけている。 阿南は生徒を見習い、反対側に頬杖を突いて内容のなさそうな、ただただショッキングな映像特集じみた映画に集中しようとした。 すると。 「……」 ぴたりと肘掛越しに三里が身を寄せてきた。 ここは後部座席の端、同列に客はなく、館内の客自体ぽつぽつと侘しいもので人目を気にする必要はない。 恋愛映画ならまだしも、こんなスプラッタホラーでいちゃつきたがるとは。 性格的にべたつかれるのを苦手としている阿南だが、三里だけは大目に見ていて、好きにさせてやった。 すると。 三里は自分と阿南が座るシートの境界線上にある肘掛に手を伸ばした。 すでに置かれていた阿南の手の甲に掌を重ねてくる。 「……」 阿南が手を裏返して掌を向けてやれば、改めて手を繋げ、指先を絡ませてきた。 教師の肩にもたれさせていた頭を人懐っこい猫のように擦りつけてくる。 しっとりした、子供っぽい熱を宿した掌の感触が薄闇の中でいやに鮮明に感じられた。 どぎつい効果音が館内を飛び交う中、阿南は自分を見上げてくる三里の眼差しを横顔に察した。 視線を返せば、恐らく……。 そうか、これが狙いだったのか。 敢えて客の少ないレイトショーを選んで十代らしからぬ倒錯的な疼きの発散に付き合わせるつもりで。

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