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17-情緒不安定阿南先生
「さよなら阿南先生」
そこで阿南は目が覚めた。
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土曜日、過去に度重ねたストーキングですっかり把握済みのお住まい、郵便番号も番地も空で言える阿南宅へ三里はバスで向かっていた。
突撃訪問というわけではない。
前日に交わしていた約束。
肩から提げたトートバッグには前もって購入していた有名店のチョコレート詰め(59粒)が入っている。
甘党阿南のため、バレンタインデーのため、お小遣いをコツコツ貯めて大大大奮発したのだ。
先生とは日曜日のお昼に会うことが多い。
だから、かな。
たった一日違いのズレ。
それだけでいつもと同じはずの窓越しの景色が違って見える。
教室と同じく表情に欠けた顔ながらも気分は至極ルンルンな三里、目的の停留所でバスを降りた。
「……先生?」
バス停に立っていた阿南に三里はパチパチ瞬き。
お出迎えなんてこれまで一度もない。
どういう風の吹き回しか。
しかも。
「え」
阿南は無言で三里に歩み寄るや否や、女子じみた柔らかな手をとり、歩き出した。
つまりは手繋ぎエスコート。
真っ昼間から平然と男子生徒の手を握って体育教師は黙々と往来を突き進む。
先生どうしたんだろう?
嬉しいけど。
変なの。
こんなにいっぱい力込めて、まるで、僕がどっか行っちゃうんじゃないかって不安がってるみたい。
僕が先生をおいてどこか行くわけないのに。
「……夢を見た」
「夢、ですか?」
「……ああ」
「それって、もしかして、僕が遠くに行っちゃうような夢だったりします?」
「……」
阿南の自宅アパート。
三里は阿南の腕の中にいた。
まだトグルボタンも外されていないダッフルコートとジャケットがぴたりと重なり合っている。
三里は阿南の胸に顔を埋めるようにして鼻をスンスン鳴らした。
「……俺を嗅ぐな、三里」
「先生、怖くなったの?」
「……」
胸に底無しの穴ができたような喪失感。
もう目覚めて数時間が経過したというのに、まだ、嫌な夢の残骸が心身に色濃くこびりついている。
三里をこの腕に抱いても尚。
「まだ怖いですか?」
頑丈な両腕にすっぽり収まって、阿南が纏うジャケットにネコみたいにスリスリ頬擦りしていた三里、ぐるんと顔を上げて眼鏡越しに阿南を見上げた。
「先生、僕、ここにいますよ?」
ちょこっと笑った三里は自分から阿南にキスをして。
静止していた唇をイタズラにはむはむ食んできた。
「僕、今日はチョコすごく奮発したんですよ……? だから今日は……阿南先生のこと、いぃ……っぱい、食べたり飲んだりしたいです」
淫乱生徒の聞き慣れたはずの過激発言を受け、阿南先生は……。
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