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仕事帰り、何でもいいから胃に入れるものを買おうと立ち寄ったコンビニで三里は彼に出会った。 両手にそれぞれ違うスイーツをとり、無表情でどっちにしようか迷っている高校生阿南に。 重たそうなスポーツバッグを肩から引っ提げ、制服の第一ボタンは開かれて、ひんやりした甘ぁいお菓子に添えられた五指はやたら長く筋張って見えた。 あ。 僕、このコ、監禁したい。 阿南を一目見た瞬間、三里は失禁寸前のほんのり甘い想いに淡く胸をときめかせた。 「阿南君、今日でお別れだね」 「……」 「本当はね、まだまだここにいてほしいけれど。君のご家族が心配して、毎日メールの嵐で。本当にね、心が居たたまれなくって」 「……」 「僕のこと忘れないでね」 「……」 「あ、うーん、やっぱり、監禁延長してもいい?」 三里がそう言うと阿南は手錠つき両手首を突き出してきた。 「俺、帰ります」 怒っているのかそうでないのか、いつだって無表情でいる阿南はその感情が読み取りづらい。 多分怒っているのだろう、三里はそう思う。 手錠を外したら殴られるかもしれない。 この数日間、肌身離さず持っていた手錠の鍵を三里は取り出した。 仕事帰りで上着はハンガーにかけ、ワイシャツにネクタイ姿の彼は、学校の制服を着たままの阿南に近寄る。 「じっとしててね」 どうしよう、殴る? 蹴る? ぼっこぼこにする? 阿南君に暴力振るわれるなんて、僕、想像しただけで……。 「……三里さん、息荒くない」 「あ、ごめんね、興奮しちゃった」 「……」 三里は小さな鍵穴に鍵を差し込んだ。 適当に左右に動かしていたら、カチャリと、歯切れのいい音。 阿南の手錠はやっと外された。 「……三里さん」 三里はぎゅっと目を瞑った。 まるでキスを待つ純情乙女のように、阿南による殴る蹴るといった暴力行為を乙女顔で今か今かと待ち構える。 他者に暴力を振るうのは趣味じゃない阿南。 それは自分に手錠をつけた三里に対しても然り。 しかしこのまますんなり帰宅するのも割に合わない気がして。 ガシャン 「え」 阿南は三里の両手首に手錠をかけた。

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