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阿南君にはまだ精通が来ていない。
六年生、他の男子より発育はいい方だし、そろそろ来てもおかしくはないだろう。
「あなーん、今の問題、ちょっと説明してくんない?」
「あ、わたしもっ、阿南くんの教え方わかりやすいんだよね」
休み時間、他のクラスメートにせがまれて淡々と勉強を教えてやっている阿南を教室片隅のデスクから盗み見している三里先生、阿南君精通の瞬間を想像して、思わず勃起しそうになった。
……阿南君の童貞、ほしい。
……残さず美味しく食べちゃいたい。
転校当初と比べて身長が伸び、すらりとした手足、幼さを残していた丸みも随分と削ぎ落されてシャープな輪郭になりつつある阿南君。
将来、どんな大人に成長するのかな。
きっと誰よりもかっこよくなる。
身長も体重も増えて、男らしくなって、成績もいいから、きっと何だって叶えられる。
……一年後、阿南君はもうこの教室にいない。
……僕の元からも巣立っていくかもしれない。
「ありがと、あなん、今日の給食のチョコプリン、俺の半分食べていーぞ」
「ハイ、苺ミルク飴あげるっ」
「ありがとう。次はクリームパンがいい」
勉強を教えたお礼にこっそり飴をもらい、禁止されているおやつをパーカーのポケットに仕舞った阿南君、何気なく三里先生の方へ視線を向けてみた。
愛しの生徒が去っていく近い未来に怯え、教科書の向こうで意気消沈して項垂れている教師の姿に、阿南君は意味深な視線を注ぐのだった。
その日の夜のことだった。
「……阿南君?」
自宅に突然やってきた生徒に三里先生は目を見張らせた。
土日訪問は度々あるが、平日にやってくるのは久しぶりで、そわそわしている三里先生に阿南君は言うのだ。
「最近、三里先生、元気ない」
三人掛けソファに座った阿南君は、自分用として常備されているカルピスを飲みつつ、早めの入浴を済ませてパジャマ姿でいる三里先生をちゃんと見上げて言葉を続けた。
「俺が卒業するから?」
ズバリ言い当てられて三里先生は赤面する。
「中学に上がっても、俺、三里先生と離れるつもり、ない」
言い終えた阿南君は濃度が高めの甘い飲み物をゴクゴク飲み干した。
一瞬にして不安が解消された三里先生は恋する乙女のような眼差しで男前なる飲みっぷりに見惚れている。
「……好き、阿南君」
思わず改めてそう告白すれば。
「二年前から知ってる」
そう淡泊に返され、教室では決して見せない照れ笑いをそっと浮かべた三里先生、照れ隠しに汚れてもいない眼鏡のレンズをフキフキした。
そんな仕草に甘党の阿南君は何だかやたら惹きつけられた。
三里先生がとても甘そうに感じられた。
初めてこのワンルームを訪れたときと同じ、お風呂上がりで濡れた髪、いつにもまして冴え冴えとした肌身、初めて目にするパジャマ姿。
「今日はもうタクシーで帰っていいよ……? ご両親、またお仕事で遅いんでしょう? お金は先生が出すから」
ボディソープの芳香が絶えず押し寄せてくる。
斜め下に向けられた眼差しは色香を含んでいて。
やたら落ち着きなく組み替えられる両手の指先は男らしからぬ繊細さに満ち溢れていて。
三里先生が美味しそうに思えてきた阿南君。
すると急に全身が熱を帯びた。
血の巡りが活発化する。
どくん、どくん、体中が脈動するかのような。
「……三里先生」
いつになく重たげな呼びかけを耳にした三里先生は自然とそちらに視線を向けた。
そして、はっとした。
ソコに釘づけになった。
「熱い、俺」
た、勃ってる、阿南君……。
阿南君のおちんちん、明らかに勃起してる……。
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