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24-ゴスじょそうぷれい

誰もが浮かれる夏休み寸前の終業式。 大掃除の間、クラスメートがこの後の予定について話し合っているのを余所に三里は一人黙々と教室の窓を拭いていた。 下手したら丸一日教室で声を発さないこともある至極無口な高校生。 女子めいた前下がり気味の黒髪に眼鏡、小柄で、女子の制服を着せても特に違和感がなさそうな。 「あの、三里くん」 「ちょっといい?」 真っ青な空を窓越しにぼんやり眺めていた三里は振り返った。 同じクラスの女子が何故か縋りつくような眼差しで立っている。 まるで上司にお伺いを立てるような腰の低さで、ろくに会話も交わしたことのない同級生の男子に彼女達はある頼み事をしてきた。 「突然で本当ムリなのは承知です」 「でもお願いします!お願いします!ちゃんと報酬も出します!」 三里はパチ、パチ、瞬きして。 またぼんやり青い空を見上げて、こっくり、頷いた。 その日の夜七時過ぎ。 久し振りに外で三里と待ち合わせしていた阿南が以前にも指定したことのある駅前広場に到着してみれば。 「阿南先生」 明らかに複数の通行人から注目を引いている三里が駆け寄ってきた。 予想もしていなかった生徒の服装に寡黙な体育教師はいつにもまして言葉を失う。 「どうですか。似合います?」 紛れもないゴスロリ服。 白と黒の二色で統一され、フリル満載、蝶結びリボン、頭にカチューシャ。 足元は白レース付黒ニーソにヒールローファー、膝上丈のミニで絶対領域発生中。 サテン生地のブリブリエプロン。 スカート下にはふわふわパニエ。 そしていつもの眼鏡。 正確にはゴスロリメイド服を着た三里、キャップをかぶっていた阿南の片腕にしがみついてゴロゴロしてきた。 「今、女の子してますから。堂々とイチャつけますね」 「……お前、その恰好は」 どこからどう見ても女子にしか見えない男子生徒は縋り甲斐のある二の腕に無表情で頬擦りしながら答える。 「ちょっとお仕事してきました」

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