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次の日にはもうすっかり阿南に懐いた三里。 甘えん坊な猫は阿南が部屋にいるときは始終かまってちゃん、足にすりすり、背中にごろごろ、お膝でぐるぐる。 料理中の阿南をよじ登って肩で寝ることもあった。 三里との生活は順調に進んでいくかと思われた。 「ふー!しゃー!」 週末、阿南の部屋にやってきた知らない人に三里は大いに混乱した、というか怒った、興奮しっぱなしの激おこ状態だった。 宥めようと差し伸べられた阿南の手を出会った日と同じようにガブガブガブガブ。 極めつけは。 ベッドでその人と阿南がぴったり重なろうとすれば……鳴き喚くは……壁を駆け上がるは……物を引っ繰り返すは……。 とてもじゃないが集中できなかった。 その人は終電に大いに間に合う時間帯に部屋を出て行った。 すると。 「ぅにゃ」 自分の歯形がくっきり残る阿南の指をぺろぺろし、べたーり、甘えてきた三里。 バスケットボールを片手で軽々持つことのできる体育教師の手を全身でしっかりだいしゅきホールドし、ぺろぺろぺろぺろ。 長いしっぽまで阿南に絡みつきたそうにしている。 「……三里、食事させてくれ」 「ゃにゃ」 「……」 幻聴だろうと思い、右手を三里に拘束された阿南は慣れない左手でごはんを食べるのだった。 三里が興奮するので次からは外で会うことにした阿南。 次の週末、約束していた待ち合わせの時間が迫り、家を出ようとしたら。 普段、学校に向かうときはそうでもないのに。 猫なりの鋭い勘で察したのか。 猛烈なるかまってちゃんぶりを見せて阿南の外出を阻止してきた三里。 それでも阿南が出かけようとすれば怒り出す始末。 足首までガブガブされてさすがの阿南もダメージを食らう。 「ふーーーーーっ!」 置き去りにするわけがないのに。 また帰ってくるのに。 何が不満なのか。 ベッドやソファ、お気に入りの場所に何度運んでも玄関前で追いつかれて三里に引き止められる。 切りがない。 約束していた時間まで残り五分になった。 一先ず遅れることを伝えようと阿南は携帯を掲げた。 三里は……それすら許さなかった……ジャンプして……手首に噛みついて……落ちたスマホ……画面に入ったヒビ……。 「……」 阿南は三里をじっと見つめた。 さすがにやり過ぎたと、自分自身が招いた結果に怯んだ三里を両手で抱き上げた。 「……俺は帰ってくる、三里」 「……ぅみゃ」 「……お前を置き去りにするわけじゃない」 怒らずにゆっくり言い聞かせてきた阿南に三里は頬擦りしようとした。 だけど頬擦りする前に床へと下ろされてしまって。 ヒビ入りの携帯を拾い上げて、靴を履き、玄関ドアに手をかけた彼をもう傷つけることはしたくなくて、でも行ってほしくなくて、ここにいてほしくて、ずっと、ずっといっしょにいてほしいと思って。 「……ぁにゃぁん」 阿南は振り返った。 そこにいたのは……猫の姿ではなく、人の姿をした、三里だった。 「……やにゃ……行かないで……ここ、いて……?」 さらさらした前下がり気味な黒髪から猫耳をはやした、長いしっぽの、華奢な裸身の、すべすべ肌の。 「あの人のとこ、行くの、やにゃ……」 「……三里」 ぶったまげていながらも寡黙な阿南を潤んだまなこでじぃっと見上げる三里。 猫なのにどうして眼鏡をかけているのか、そんな些細なことが初めに気になる阿南なのだった……。

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