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「どうして人になったぁ……?……わかんにゃい……あにゃん、止めたい、思ったら……よくわかんにゃい内に……こうなったにゃ」 阿南への想いが引き鉄となって人の姿になったふしぎな猫の三里。 そんな三里との新生活が始まって。 「おかえりにゃさい」 「……どうして俺が買ってきた服を着ない、三里」 夜七時過ぎに帰宅してみれば自分のシャツを着て、後はなんにも着ていない生足猫耳三里に出迎えられる日々。 「あれ、きゅーくつだもん。それにあにゃんのにおい、しないもん」 三里は前と同じように阿南にすりすり、ごろごろ、ぐるぐるな日々だ。 料理中の阿南に背中から抱きついてくる。 お風呂に入っていれば覗いてくる。 トイレに立てば後を……。 「こら」 阿南がぼそっと注意すればソファかベッドで体育座りをして待っている。 「あにゃん、すき」 笑顔の浮かべ方を知らないのか、表情に乏しい三里、代わりに行動で阿南への愛情を示してくる。 自分が散々つけた傷跡だらけの指をぺろぺろしようと……。 「それはもうするな」 「にゃ? なんで?」 「……頬も首も、もう駄目だ」 「……くすん」 スキンシップを制限されて涙ぐむ三里に阿南の胸はズキズキ痛む。 「……わかった、しにゃい」 「……」 「だから、あにゃんから、して?」 「……」 「おみみ、なでて?」 撫でるくらいならいくらだって。 「ぐるぐるぐるぐる……きもちぃぃ」 ソファで阿南に膝枕してもらってご満悦な三里、耳も撫でてもらって、喉ぐるを繰り返す。 「こっちも、こっちのおみみも、ほしぃにゃ……ふにゃぁぁ~……ぐるぐる……ぐるぐる……」 「……もういいか」 「まだにゃ」 その内寝てしまった三里。 なでなでの催促をしなくなったお昼寝三里を撫で続ける阿南。 傍らで点滅している、新調したばかりの携帯。 私の方にも構って?と言いたげに延々と繰り返される着信ランプ。 「むにゃぁ……あにゃぁん……」 お昼寝から目が覚めた三里はびっくりした。 部屋のどこにも阿南がいない。 ベッドの布団を捲っても、トイレやお風呂のドアを開いても、冷蔵庫を開けても、どこにも。 「あにゃぁー……ん」 窓辺から夕日が差す床の上でぺちゃんと蹲った三里。 猫耳が心細そうに震え出す。 もしかして、ぜんぶ、夢だった? あにゃん、最初から、いない? あたま、みみ、なでてくれた、ごみばこから拾ってくれた、おっきな手。 かんでも、ひっかいても、どんなひどいことしても、おこんなかった、やさしい、やさしい、だいすきな……。 「くすん、くすん」 とうとう泣き出してしまった三里。 ぽろぽろ涙がこぼれて、だぼだぼシャツでごしごし、ぬぐって。 「あ」 あにゃんのにおい。 そーだ、これ、あにゃんのにおい。 あにゃん、いる、ここに。

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