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27-4
一つのお別れを経てきた阿南は三里の好物である魚フライを買って帰宅した。
家を出る時はソファで寝ていたはずの三里はベッドで眠っていた。
クローゼットから次から次に取り出された服の半分が床にぶちまけられている。
半分は三里の腕の中。
阿南の匂いを恋しがって掻き集められるだけ掻き集めて、顔を埋め、華奢な体をまるっと丸めて。
「あにゃん……」
買ってきたものをダイニングテーブルに下ろした阿南は三里を起こさないようそっとベッドに腰掛けた。
撫でると起きるだろうか。
じゃあ、これなら?
阿南は自分の服を掻き抱いてすやすや眠る三里の頬にそっと唇を落とした。
「……あにゃ」
……しまった、起こしたな。
「っっ……ふううぅぅううぅぅ……っっ」
「……三里、言っただろう」
「あにゃ……っあにゃ……っ」
「……俺はお前を置き去りにしない」
くすんくすん、どころか、ぶわわわわっと涙した三里は服を手放して阿南本体に抱きついた。
興奮しているのか。
久し振りに噛みついてくる。
阿南の長い指を唇奥に捕らえてガブガブ、ガブガブ。
阿南は止めるでもなく三里の好きにさせてやる。
すると。
「……ごめんにゃさい」
やりすぎたと自分で気が付いた三里は、今度は、阿南の指を吸ってきた。
血の滲んだ痕にざらついた舌を添わせて、ゆるゆると舐め、ちゅぅちゅぅ、仔猫のように無邪気に。
「……きず、いっぱい……ぜんぶ三里がつけたにゃ……ここも……これもにゃ」
手の甲、手首、ちゅっ、ちゅっ、三里は啄むみたいに阿南に刻まれた傷跡を唇で辿る。
「ごめんにゃさい」
「俺こそ悪かった」
「にゃ……?」
「勝手に部屋を出て、不安にさせて」
三里が抱いた不安の深さに比べればこんな小さな傷の数々、大したものじゃない。
「だから謝らなくていい」
夕焼け小焼けを過ぎて暮れゆく外。
二人きりの部屋。
壁の向こうの雑音が遠く感じられる。
「……にゃぁ……」
阿南の温もりにすっぽり抱かれて、猫の三里なら、それで満足するはずだった。
だけど今の三里は。
ぽかぽかして、あったかくて、きもちいい。
それなのに。
そわそわして、むずむずして、へん。
首筋に触れる阿南の息遣い。
猫耳を撫でてくれる大きな手。
鼓動が触れ合うように重なった胸と胸。
どき、どき、どき、どき
「にゃぁぁ……ぐるぐる……」
あつい。
じんじんする。
おなかの下らへんがあばれてる……?
「ふぁぁ……あにゃぁん……ぐるぐるぐる」
その時、阿南は。
三里の異変にようやく気づいた。
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