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29-パラレル番外編-今日の晩ごはんなーに?
■この話には別シリーズの「女装男子と俺様先生」によく似たキャラ二人ががっつり登場します、なおかつ片方(受)が孕み男子という設定です
イヌミミ科属性の阿南はかつて軍用イヌミミとして戦地で働いていた。
パートナーの命令に従って危険な任務を的確にこなす優秀な軍用イヌミミだった。
しかし任務の際に片目を負傷して失明し、軍を退くこととなって。
「お、悪ぃ、阿南」
「あ、俺がやるからいーよ!」
今はあるお宅に飼われている。
飼い主はまぁまぁそれなりに優しい男+とても優しい少年。
夕食の準備を手伝い、皆で同じテーブルについて、同じご飯を食べる。
ちなみに今夜はカレーライスだった。
「おかわり、いっぱいあるよ!」
とても優しいコーイチは高校生だ。
「俺の、肉少ねぇぞ、コーイチ」
まぁまぁそれなりに優しい緒方巽 、女兵士を育てる特別訓練女子高等学校で教官をしている。
愛し合っている二人に飼われている阿南、二人が会話する傍らで黙々とご飯を食べる。
すぐ耳元を弾丸が掠めたり、痛ましい悲鳴が後を絶たない、血塗られた戦場で鋭く張り詰めた緊張感と対峙していた昔よりも。
穏やかなこの時間を阿南は気に入っている。
「阿南、俺のお肉分けてあげる」
「おい、だからな」
「……俺は十分だから。緒方にやってくれ」
立派な黒色の立ち耳、短髪、黒のアイパッチ、首元にはドッグタグネックレス。
半袖シャツに迷彩ズボン、ミリタリーの紐ブーツ、軍用イヌミミとして活躍していたときと変わらない出で立ち。
遠慮するコーイチをイスに座らせて後片付けを済ませ、一番最後にお風呂に入って、居間のソファで就寝。
朝は誰よりも早く起きてゴミを出すついでに団地をマラソン一周、些細ながらもご近所さんと「おはようございます」とコミュニケーションをとる。
「あっ、阿南また朝ごはん作ってくれたの? ありがとーっ」
「お前の作る玉子焼き、塩気と甘さが絶妙で美味いんだよな」
飼い主の二人を送り出すと、午前中にお掃除・洗濯を済ませ、空いた時間は日向ぼっこしつつ読書したり、昼寝をしたり。
何てことはない一日。
阿南にとっては夢のような一日に値した。
午前中は爽快に晴れ渡っていた天気が昼下がり頃から崩れ始めた。
降り出した雨。
庭に干していた洗濯物をぱぱっと室内に入れ、玄関に回って傘立てにコーイチの傘が置かれているのを見、阿南はイヌミミをピンと尖らせた。
コーイチの下校時間を見計らって、傘を差し、ビニ傘を一本持って外へ出る。
道路には水たまりが出来上がり、車が通れば濁った水飛沫が盛大に舞い上がった。
「あ、イヌミミさんだ、こんにちはー」
小学生に挨拶されて阿南は律儀に浅い会釈を返した。
雨空に張り巡らされた電線、埃っぽい湿気の匂い、灰色の世界を写し出す家々の窓。
濡れたカラスが翼を翻して雫を散らす。
雨を纏った草木の緑はいつになく瑞々しく見えて。
ふと阿南は立ち止まった。
すぐ隣には錆びついた門扉、その向こうにはやたら傷みの激しい家があった。
近所のこどもらから<幽霊屋敷>と呼ばれている廃屋。
阿南は頻繁にここを通る、今朝もマラソンで通ったばかりだ。
朝にはなかった気配を感じる。
射竦めるような眼差しで廃屋を見据えた阿南は躊躇うことなく門扉の先へ足を進めた。
塗装の剥がれ落ちた外壁に沿って雑草が伸びきった荒れ放題の庭へ。
誰かが倒れていた。
とても弱々しげで、ひどく華奢で、何とも頼りない体。
阿南の足音を敏感に聞き取った耳が……黒いネコミミが、ぴくん、小さく震えた。
「……だぁれ……」
鋭く研がれていた阿南の眼差しが俄かに揺らいだ……。
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