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31-顧みれば尊し
「いってきます」
朝、家を出るときも。
夕方、学校から家に帰っても。
ごはんを食べるときも。
夜になってベッドに入って眠るときも。
お父さんもお母さんも仕事で、いつだって一人だった。
僕の家も僕のなかもいつだって空っぽだった。
その空っぽをどうにかしたくて、何かで埋めたくて、たくさんの人といっぱいセックスした。
「三里君はお口がちっちゃいね、おしゃぶり、とても気持ちがいいよ」
「あーーー……すっげぇきもちいいから……射精 しちゃった……」
「三里ちゃん、よくできまちた、イイコでちゅね」
いろんな人に褒められた。
だけど空っぽは満たされるどころか、どんどん広がっていくばっかりで、どうにもできなかった。
きっとあれだ。
パズルのピースみたいな。
僕が選ぶピースは、僕の空っぽのカタチに合わなくて、ぜーんぶハズレ。
だからうまくはまらない、埋まらない。
正解のピースはどこかに紛れ込んじゃっているんだろう。
いつか見つかるかな?
「おらっ、もっとケツ上げろッ」
スパンキングされたりイラマされたり複数攻めされたり、特に怖くはなかったけれど、痛いしキツイし眠くなる。
誰もいない家に帰って、シャワーを浴びて、お湯にまじって自分の血が排水溝にゴボゴボ流れていくのを何回もぼんやり見送った。
イラマのされ過ぎで口の端っこが切れて、痛むから、食事が面倒くさくなって、ストロー付きのジュースしか飲まない日もたくさんあった。
このままピースが見つからなかったら、僕、どうなるんだろう。
空っぽのままひとりきりで死んでいくのかな。
まぁそれもそれでいいか。
ひとりで死んでいくのなら、死に際に誰かとの別れを悲しむこともないし、誰かを悲しませることもないからーー
「三里」
あ。
これだ。
見つけた。
僕に欠けていたもの。
空っぽな僕を埋める、僕の欠片 。
「阿南先生」
「……寝言、言っていたぞ、夢でも見てたのか」
好き好き大好きな体育教師宅のベッドの上、好き好き大好きな阿南先生に腕枕してもらって昼寝していた三里は澄んだ瞳をパチクリさせた。
「パズルの夢見てました」
「……シュールな夢だな」
週末の休日でも学校の制服を着ている三里は部屋着姿の阿南の胸板にゴロゴロ頬擦りする。
「……夢の中でパズルは完成したのか」
欠伸一つして、また夢の続きへ戻っていきそうな三里のサラサラな黒髪を撫でる大きな掌。
「夢の中じゃなくて……阿南先生に出会って……ガチで完成しました……」
寝惚けているのかと思った阿南はそれ以上聞き返さなかった。
そんな体育教師の引き締まった体に腕も足も絡ませて三里は昼寝を再開させた。
「おかしな奴だ」
すぐに安らかな寝息を紡ぎ始めた生徒に無表情の阿南は呟き、華奢な骨組みの体を抱き返した。
はまり合う二つのピースみたいにくっつき合って二人は眠った。
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