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――1週間後。 ボクはいつものように光に会いに来ていた。 「光、あのね、前も言ったけど来月……」 「しつこいな、俺は行けないって……」 「ボク、光と沖縄行ってみたかったな……」 「……飛行機なんか絶対乗れない」 「怖くないようにずっと手、握っててあげるよ?」 「は!?なんだそれ、ガキじゃあるまいし……他のヤツに馬鹿にされるだろ」 「そうだね、ごめん。  でもさ、そろそろ本当に出席日数ヤバイんじゃない?」 「別にいいよ、学校なんかもう辞めるし」 「そんな……おばさんが悲しむよ?」 「どうでもいいよ、あんなババァ」 「光……お母さんにそんなこと言っちゃダメだろ」 「うるせぇな……嫌いなんだよ、昔から。  あのババァ、機嫌の良い時だけ俺の事甘やかして、都合の悪い時は邪魔者扱いしてさ……  父さんと離婚した後、あの人に何度も殴られた……  男に逃げられてイライラして子供に八つ当たりだぜ?最悪だよ、もう。  俺はあのババァのせいで病気になったんだ。  あんなの母親と認めたくない。アレと血が繋がってると思うだけで吐き気がする」 「光……」 やっぱり光は可哀想だ。 ボクが面倒みてやらないとダメだな。 どうしようもなくて、惨めで、可哀想な、だけど愛しいボクの光……。 「光、好きだよ」 「……………………は?」 「あ、ごめん、口が滑った」 光があまりにも惨めで可愛かったから、つい口が滑ってしまった。 「な、なに……なんだよ、す、好き……?好きってなに?」 「忘れて良いよ、ごめんね」 「な、なにっ……なんなんだよッ……!」 「光はボクのこと好き?」 「は?き、嫌いだよ、お前なんかっ」 「そうなの?」 「だってお前、うざいし、お節介だし……っ  お、お前だってどうせ俺の事、心の底では見下してんだろ!?  キモイって思ってんだろ!?  俺の事バカにしてる癖に……なのに、なんで、す、すっ、好きとか、言うんだよ……」 「ボクはきっとキミと初めて会ったあの日から、キミの事が好きだったんだと思うよ」 「な、なっ!?なん、で……?お、俺なんか……  す、好きなんて嘘だ!お前、俺を騙してんだろ!?  わ、分かった、ば、罰ゲームかなんかだろ……  俺に告白してオッケーされたら一週間付き合うとか……そういう……」 「違うよ。ボクは真剣だよ?」 「……っ、騙されないぞ」 光の顔が少しづつ赤く染まって行く。 人から愛される事に慣れてない光は、ボクからの告白に戸惑いつつも喜んでいる筈だ。 光がボクの事を好きだと言う確信はあった。 光は、好意を通り越してボクに依存している。 だってボク以外に光に優しくする人間は、この世に存在しないから。 だから光がボクに依存するのは当然なんだ。 「光、覚えてる?ボクらが初めて会った日のこと」 「覚えてねぇよ」 ――これは嘘だ。 覚えてる筈だ。 「光の両親が離婚するって決まって、光は玄関で泣いてたよね」 「泣いてねーよ!」 「光んちのお父さんが浮気して……  それから光はおばさんと二人暮らし……大変だね。  さっきも言ってたけど、その頃のおばさんは荒れていて光はいつも打たれて泣いてたよね」 「…………」 「…………辛かったね」 「!?」 ボクは光を抱きしめる。 光の体温を感じる。 あんまりお風呂に入ってない光は、ちょっと変な臭いがした。 「でも、もう大丈夫だよ」 「…………」 「ボクが付いてるからね。  ボクが守ってあげる。  ボクがキミを助けてあげる」 「あ…………」 光の目から、涙が零れ落ちた。 涙は光の頬を伝い、ボクの肩に落ちる。 「高幸……」 「なに?」 久しぶりに光に名前を呼ばれた気がした。 「俺、はっ…………ダメ……なんだ……外に出るのが怖くて、嫌なんだ」 「……うん」 「まわりの奴らが俺を見て笑うんだ、バカにするんだ。  笑われたくない……傷付きたくない……学校、行きたくない……」 「うん、ごめんね……今までごめんね……学校、辞めちゃっていいよ」 「…………」 「もう無理に来いだなんて言わないから……  だいじょうぶ、だよ……」 「…………」 ボク達はしばらく抱き締めあって、お互いの体温を感じていた。 愛しさが込み上げて来る。 とても優しくて温かい気持ちになる。 ――ボクは光の為ならなんでもできる。 ――なんでもしてあげたい。 心の底からそう思う。

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