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Ⅱ:1

 ガヤガヤと賑やかな大学の構内で、俺は非常に不愉快な視線に晒されていた。  こちらを見るどの視線も俺を馬鹿にしており、嘲っているのが伝わってくる。分かっている。全てはこの首にはめられた、黒い異物のせいだと言うことは。  災厄は、今から三日前の心華やぐ金曜の夜。久しぶりに参加した合コンにてこの身に降りかかった。  相手はDomの中でも有名なDom堕とし、別名〝Switch〟の異名を掲げる派手な容姿の男、清宮だ。奴の手によって堕ちたDomは、命令をするよりもされることに生き甲斐と快感を覚える犬に成り下がる。そんな噂が実しやかに囁かれていた中で、まさか己の身を実践に使われるとは思いもしなかった。  Domの代表的な力〝Glare(グレア)〟を差し向けられれば俺の視界はグルグルと回って、躰はあっと言う間に平伏した。意識は見上げたその先にある清宮の瞳に吸い込まれたまま、全身が、細胞が清宮からの命令を待っていた。本能が、快楽を求めて走り出していた。そうして気づけば俺はバスタブの中で清宮に後ろから抱きしめられていて、その首には漆黒の首輪が着けられていた。  異物に気づき直ぐに驚き外そうとしたが、首輪の鍵はびくともしない、外れない。 『ふっ、ふっ、ふざっけんなよぉお!!』  風呂場の中に響き渡る自分の情けない声が、馬鹿みたいに今も耳にこだましている。それを穏やかに笑いながら見ている清宮は、確かにDomたる風格を漂わせていた。  必死にもがいて外そうとする俺の腕をやんわりと止めた清宮は、混乱で紅く染まった耳にそっと囁いた。 『そんなに掻き毟っちゃ…ダァメ。肌に傷がついちゃうでしょう?』  緩く柔く耳朶を擽る甘い声。全身の肌がぞくりと粟立って、しかし躰の奥は燻ぶる熱を産んだ。それに気づいた清宮は喉をクツクツと震わせると、そのまま俺の首に舌を這わせ舐め上げた。 『今も、これから先も。伊沢くんの肌に痕をつけて良いのは俺だけ。…ね?』  Subに目覚めた俺がDomの誘惑を受け流せる訳がなく…。その後も散々、俺は清宮の遊びに付き合わされ、肌に痕を残される羽目になった。  ただでさえアイツの寄こした首輪は無駄に高級そうで目立つのに、その下にある肌が明らかに怪我ではない紅で染められているから、周りの目の好奇を更に強めている。中にはDom性を丸出しにして、舌なめずりするように俺を見る奴もいたほどだ。 「ちくしょう…」  何度目か分からないその呟きに一ミリの救いもないことは、俺が一番、分かっている。

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