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Ⅱ:3

 俺たちDonの間には様々な決まり事がある。その殆んどは暗黙の了解程度で相手次第だったけど、破った時にどうなるかもまた、相手次第だった。  だからこそ自分よりも力の強いDomに逆らう事は得策とは言えず、黙って身を引くのが己を守る一番の手段だと俺は思っている。どんな報復が待ち受けているか分からないからだ。そしてそんな予想はきっと、これから俺の目の前で証明されるのだろう。  暗闇の中でギラリと光る清宮の眼。  ソレを向けられているのは俺ではないのに、全身に悪寒が纏わり付いて肌は冷や汗を滲ませた。 「お前もDomの端くれなら、これがご法度だって事くらい分かってるんだろ?」  清宮は足元に蹲る俺の前に膝をつき、片手でくるりと俺の躰の向きをひっくり返すとそのまま自身の胸に抱き込んだ。そのせいで嫉妬を丸出しにした男と目が合うが、清宮の冷たい指が俺の顎を捉えて上を向かせるから、視線が絡んだのは一瞬のことだった。  苛立っているのか清宮の仕草は随分と雑で、いつも笑顔を浮かべた余裕の塊のような男のものとは思えなくて。突き刺さる男の視線よりも、清宮の行動が俺の意識を持っていった。 「こんなに目立つようにしてるのに、お前の目は節穴なの? ねぇ、どうなの? 俺はお前に喧嘩を売られたと思って良いんだよね」 「っ、そ、そんなんじゃっ」 「だったら何なの? 一体お前は、何がしたいの?」  真後ろにいる清宮から重すぎるプレッシャーが溢れ出した。それを感知したであろう男の額には冷や汗や脂が浮き上がっている。肌の上で留まることができなくなった汗がダラダラと流れ、顎を伝い落ちては地面にシミを作る。 「だって、だって! 納得できるわけないでしょう!? どうしてソイツなんですか!」  男は泣くのを必死で堪えている様な顔で叫んだ。 「誰も貰えなかったのに! 誰がどれだけ願っても、貴方は誰にも証を与えなかったのに! それが俺たちの支えだったのにっ! どうして、どうしてソイツが貰えるんですか!」  男が言い終わると同時に滑るようにして離れた清宮の手と、躰。背中に空気が触れたことにホッとした時にはもう、清宮は俺を追い越して男の前に立っていた。

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