9 / 47

Ⅱ:終

 〝痛いことはしない〟  その言葉に沿って取る清宮の行動は確かに正しい。約束を守っていると言っていいだろう。だからと言ってこんなのは聞いてない。反則じゃないのか!? 「やめっ、やめぇ…あぅ」 「ダメ、動いたらお仕置き増やすよ」  前と同じように、清宮の瞳を見つめただけで俺は完全にSubへと性を変えた。優しく落された命令に従い、ソファに腰掛ける清宮の足元にペタリと座った。所謂女の子座りってやつだ。普段はできないのに、Subになった途端できるのだから不思議なものだった。  不思議なのはそれだけじゃない。清宮が言ったとおり、以前の様にグルグルと意識を回して飛ぶようなことはなかった。だがその代わり、自身の躰の変化がいちいち分かって恥ずかしい。切り替わっていくその瞬間が分かりすぎるのだ。  手始めは、『Kneel(ニール)』と言われたその瞬間に全身が熱を持ったことだった。 「俺、伊沢くんにだけは痛い思いさせたくないの。だから、ちゃんと言うこときいてね?」  頷く代わりに吐息を漏らした。両手を背中の後ろでギュッと繋ぐ。縛られているわけではない。痛い思いをさせたくないと言った通り、清宮は俺を縛ったりしなかった。縛ったりしたくないから、自分で自分を拘束しろと言ったのだ。 「ん、いい子」  そのたった一言に、全身の肌がゾクゾクと粟立つ。 「あっ、あ、や…ちゃんと、触れっ、よぉ!」 「ダァメ、これはプレイじゃないの。お仕置きだって言ってるでしょ? ちゃんと我慢できたらいい子いい子してあげるからぁ」 「うぁっ!」  全裸で、両手を背中に回して寝そべって。開いた足の間には清宮が居て、でも、清宮は昂ぶって蜜を零すそこには触ってはくれなくて。  清宮は、俺を呼び出した男が作った痣を舐めていく。まるで自分の唾液に癒しの効果があるかのように、一つ一つ丁寧に、それこそ際どい場所までねっとりと舐めあげる。オマケに曝け出された肌という肌をイヤラシい手つきで撫でるから、こっちは堪ったもんじゃない。 「もっ、ヤダァ! イ、かせろぉ!」 「イっても良いよ。前みたいに縛ってないからイけるでしょ? ま、イッたらお仕置き増やすけどねぇ」 「ひゃあ!」  色の変わっていなかった肌をジュっと吸い上げ花を降らせる。チリっと焼け付くような痛みが直に下半身へと繋がり、更に蜜が溢れた。Subになると、全身が性感帯にでもなってしまうのだろうか? 強い快楽に、瞳から涙が溢れた。 「あらら、泣いちゃった。可愛いなぁもぉ~。本当にやめて欲しいなら、ちゃんとSafe wordを言わないとダメでしょう。ほら、なんだった?」  理性を残している分、例のワードを口にするのに抵抗を感じる。 「意地張ってるともっと辛いよぉ? 俺だって伊沢くん泣かしたくないからさぁ、ね?」 「…っ、……き…」 「なぁに? 聞こえないなぁ」 「すっ……き!」 「違いまぁす、足りませぇん!」 「うっうっうっ…このっ変態! アホ! うっ、くそッ…〝大好きぃ〟!!」  鼻水を垂らし、唇を噛みながら。悔しくて悔しくて仕方ないけど、これ以上、達することを自力で我慢するのはもう無理で。泣きながらも遂に、プレイストップを意味するSafe wordを口にした。なのに…。 「うん、俺も伊沢くんがだぁい好き!!」  清宮は泣いて喘ぐ俺の口にキスをして、そのまま尻の中に指を突っ込んだ。 「うっ、嘘づぎぃぃいいっ!!」 「ねぇ、伊沢くん。さっき伊沢くんは報復した俺を責めたけどさ。あの男を踏みにじってる時、きみ…顔が笑ってたよ? 気付いて無かったでしょう。ほんとゲスいよね、伊沢くんって。まぁ、そんなとこも好きなんだけどね」  そう言って散々指で蕩けさせた俺の中に、エグ過ぎる凶器を突っ込んだお前こそ、俺より何百倍もゲスいっつーの。 END

ともだちにシェアしよう!