11 / 47

Ⅲ:2

「清宮くぅん、私にも命令して~?」  こうして清宮が、見ず知らずでありながら随分と自信ありげなSubに声をかけられるのも、街を歩けば毎度の事。 「ごめんねぇ? 俺、パートナーいるからさぁ」  清宮は必ず断る。パートナーが居ると言えば、大抵の奴は不服そうにしながらも諦めて去っていく。例え俺が冴えない見た目であっても、D/Sの間で首輪を着けたパートナーの存在は大きい。  清宮はD/Sの間でかなりの有名人だが、それはswitchができるからだけでなくDomとして有能だからだ。そんな男が俺だけにその才能を向けようとするのだから、それはそれは大きな優越感を俺に与えていた。 「ぇえ~、ちょっとだけ! ね? ちょっとで良いからぁ」 「ん~」 「ホントにちょっとだけ! それで諦めるから、ね? 良いでしょう?」  今日の相手はいつになくしつこかった。声も大きく、周りからの注目を集めている。基本人当たりの良い清宮も、流石に戸惑いの表情を浮かべた。まぁ、それでも結局は断るだろうけど。だってこいつには、俺がいる。 「うん、分かった」  は? 驚いて清宮を見た俺を、清宮は見ない。 「一回だけ。今回限りだからね?」  そう言って清宮は、この俺の目の前で。嫌らしく媚を売るSubを受け入れた。  DomとSubの関係性はとても不思議で難解だ。友達でもなければ恋人でもない。例えD/Sパートナーが存在していても、そこに婚姻関係の様な確固たる証は何もない。互いに恋人を作り、結婚することも当然できる。恋愛関係とは全く別のフィールドで繋がっているのが、DomとSubなのだ。  自身の恋人や結婚相手にD/Sパートナーを作ることを咎められないのと同じように、自身のD/Sパートナーに恋人を作ることや結婚することを咎めることはできない。  首輪を着けた他人のパートナーに手を出すことはモラルを欠いた行為だと認識されているが、それ以外は特別厳しい決まりはない。場合によっては複数首輪付きのパートナーを持つ者も存在する。つまり、首輪を与えた俺というパートナーがありながらも別のSubに命令を下そうとする清宮の行為は、マナー違反に当たらない。咎められない。  案外、D/Sパートナーとは虚しい関係性なのかもしれない。

ともだちにシェアしよう!