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Ⅲ:6
「俺でも君を苛める事はできるし」
「いやいや、別に俺は苛められたいわけじゃねぇし、ってか俺Domだし…てそうじゃなくて」
「俺、こんな見た目だけどミヤよりもアッチの方はデカイし上手いと思うし。君を恋人として気持ちよくさせられる自信あるよ」
「はぁ!? いやいやオイ聞けよ! って、えっ、ちょ、ちょちょちょ、…うぁっ!?」
ゆるゆると太ももを這っていた手が、一気に中心へと滑った。その手は思い切り俺の股間を握りこんだ。いや、握られる、とそう思って思わず声を上げた……のだが。
「だぁれが俺よりもデカくて上手いってぇ?」
俺の真後ろから、もうここ最近で嫌というほど聞きなれてしまった、あの甘い甘い花の蜜みたいな声がドロリと漏れた。
「ひっ、ミヤッ!」
「清宮!?」
篠原の手は、俺の後ろから伸ばされた清宮の右手によって強く掴まれ、血の気を失っている。手だけじゃない、その顔も蒼白になり笑顔が完全に引きつった。
「あ…あれぇ? なんでミヤがこんなところにいるのかなぁ?」
「それは俺のセリフだよねぇ? 俺、この子には手ぇ出すなって言わなかったっけなぁ」
「いやぁ…あの、これはですねぇ」
「伊沢くんもさぁ、俺のこと無視して、こんな奴とこんなトコでなぁにしてんのぉ?」
「ぐっ…、」
清宮の空いた左手が、ゆるりと俺の首を絞めた。
ここへは、篠原が清宮と何かしら関係がある事を見越して半ば当てつけのように来た。もしも今日の事を清宮に咎められたのなら、その時はハッキリ言ってやるつもりだった。お前が自由にするように、俺だって自由にしてやる。お前に俺の行動を縛る権利なんてありはしないのだと、そう言ってやるつもりで来たのだ。
それなのにほんの少しの触れ合いだけで、それも愛撫からは程遠い〝首を絞められる〟という行為に、俺の躰は今、快楽への痺れを拾い熱を持ち始めている。それが、酷く悔しかった。
「俺は、お前のモンなんかじゃねぇ!」
「……なに?」
「…コイツにっ、首輪、外してもらうんだッ」
清宮の手を振り払う。首を掴んでいた手は案外簡単に外れ、同時に篠原の手も自由になった。
「よくも俺に使い古しの首輪渡しやがったな、この野郎! こんな男か女か分かんねぇ奴が使った汚ねぇ首輪、さっさと外してテメェともパートナー解消してやるって言ってんだよ! 分かったか!」
そう言い切った俺は、ゼェゼェと肩で息をしていて半泣き状態だ。そんな俺を立ち尽くし見ていた清宮は、一度だけ固まっている篠原を見ると直ぐに俺へ視線を戻し、にっこり笑った。
「なるほど、話は大体理解した」
「そうかよ! 物分りが良くて助かったわ!」
「うん、如何に伊沢くんが俺の気持ちを分かってくれてないのかってことが、よーく分かった」
「あ?」
「勘違いしてるのは知ってたけど、ここまで分かって貰えてないと流石に俺も悲しいよ。だからさ、良い加減周りにも君にも分からせてあげる」
そう言って清宮は、そっと俺の頬に優しく手を当てた。
「俺、前に言ったよね? 手に入らないならいっそ壊しちゃえ派だ、って。君はちっとも言うこときいてくれないし、脅さなきゃ俺の手の中に入ってくれないし、脅したってこうして直ぐに俺を無視してどこかに行っちゃう。いつもならこんなに面倒な子、絶対に相手にしないしとっくに壊しちゃってる。だけど君はまだ壊れてない。それがどうしてか分かる?」
清宮の指が、俺の頬をするりと愛撫のように滑る。
「……な、なん」
「俺が君を、壊したくないからだよ」
清宮は服が汚れるのも気にせず、スツールに座る俺の足元へと膝まづいた。
「君だけはどうしても壊せない。壊したくないんだ」
「お、おい…」
ダラリと落ちる俺の足を捕まえて、靴を脱がし、靴下も脱がし、清宮は周りの目も気にせず俺の足にキスを落とした。
「お願いだから、良い加減俺の気持ちに気づいて、伊沢くん…」
シンと静まり返った店の中。誰もが清宮の甘く切ない声に瞳を蕩けさせ、ほう…と息をつく。そんな中でただ一人だけ、場にそぐわず笑いを堪えてニヤケる奴がいた。……俺だ。
「オイ、まてよ、もしかしてお前…俺のことが好きなの?」
「…そうだよ?」
「マジかよ」
「マジだよ、飲み会のあの日に一目惚れしたんだ。やっと分かってくれた?」
足元から俺を見上げる清宮に、俺の口角はもっと上がる。
「はっ…マジか、すっげウケんだけど」
周りから冷たい視線が突き刺さるが気にしない。
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