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Ⅲ:7

「お前さ、俺とどうなりたいワケ? 脅してこんな首輪着けてもさ、お前が強要した関係なんて結局はお遊びパートナーだろ? お互い恋人ってヤツができたって文句言えねぇ仲じゃねぇか」 「…そうだね」 「俺が篠原と付き合ったっていい訳だろ? 何でさっき俺、責められたワケ? 首輪だって一応、まだ外してないのによぉ、なぁ、何で?」 「………」 「言えよ。跪くなんてキザったらしいことしなくて良いからさ、そこで土下座して言ってみろよ。〝伊沢くんを取られたくありませーん〟〝俺は伊沢くんが大好きでーす〟〝恋人になって欲しいでーす〟」  流石にここまでくると、周りから激しいブーイングが飛んできた。篠原だけが呆気に取られて静かだ。そんな中で野次を抑えたのは、意外と言うか矢張りと言うか、清宮だった。  ただ一言「外野は黙ってて」、それだけ言えば店の中はまた静かになった。 「土下座してそれを言えば、俺の恋人になってくれるの?」 「あ? あ~…、条件がまだある」 「なぁに?」 「D/Sのパートナーも俺だけにしろ」 「今も君だけだよ?」 「最近他のヤツも相手にすんだろが、気に入らねぇからやめろって言ってんだよ」 「わかった、もう二度と相手にしない」 「男でも女でも、D/Sでもそうじゃなくても関係ねぇ。俺以外と飯食ったり、遊ぶことも禁止する」 「全部君だけ、伊沢くんだけ」 「………」 「君を誰にも取られたくない。誰にも触らせたくない。誰にも見せたくない。いっそどこかに繋いで閉じ込めちゃいたい」 「……は」 「世界中で君だけが好き。伊沢くんだけを、愛してる」  恥ずかしげもなく土下座して、清宮はまた俺の足の甲へとキスを落とした。店の中のあちこちで悲鳴が上がった。比例するように俺は腹のそこから笑いが溢れた。可笑しい、可笑しすぎる。  あの誰もが憧れるDomのプリンスだかキングだかが、こんな冴えない男に土下座して恋人になってくれと懇願して見せているのだ、笑わずにはいられない。  俺は馬鹿みたいにゲラゲラと涙を流して笑った。飲む気なんて一ミリも無かった、泡の消えた生ぬるいビールを一気飲みする程度は気分が高揚していた。  だから、気付かなかったのだ。俺はとっくにこいつの罠に嵌ってたんだってことに…。 「俺たち、もう恋人なんだよね…?」 「おーおー! なってやるなってやる、恋人でもなんでもなってやるよ」  まだ涙を流して笑う俺の横で、何故か篠原が息を呑む。 「じゃあ今からは、恋人として接するよ?」 「あ?」  振り向いて、今更清宮の冷たい笑みに気付いたって、もう遅い。 「俺以外の男とふたり、飲みに来て太もも触らせるなんて浮気だと思うんだよね」 「…え、は…」 「それに大事なココまで触られかけてたよねぇ。一体誰が触らせて良いって言ったの? ねぇ、伊沢くん、この躰は誰のもの? まだ分かってないみたいだから教え直さなきゃいけないね」  清宮の目がギラリと光った。俺の躰からあっと言う間に力が抜ける。  ――さぁ、お仕置きタイムの始まりだ。  ガクンとスツールから崩れ落ちた俺を、拾い上げる者など誰ひとりとして存在しなかった。

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