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Ⅲ:8
もう何度、こうして清宮の足元に膝をついたか分からない。けれどこんな人前でswitchをかけられるのは、こいつと出逢ったあの飲み会以来のことだった。
いつもよりswitchが軽い。頭の中はグルグルと回っているのに、意識はしっかりしていて周りの状況が良く分かる。
「伊沢くん、おすわりして」
「な…なんで…こんな」
「お す わ り」
Kneelではなく、使われた言葉は〝おすわり〟。
まるでペットに命令する様に言い放った清宮からは、いつのも熱が伝わってこない。本能的な恐怖を感じた俺の躰は、屈辱的な言葉を、それでも従順に受け入れた。
女のようにぺたりと座り込んだ俺を、清宮が見下ろす。
「ねぇ、ここがどこだか分かってる?」
「………」
「ゲイバーだよ」
えっ、と篠原を見れば奴は俺からサッと目を逸らす。
「こんな所にノコノコと、そんな奴について来ちゃって」
「で…も、そいつは…」
幾ら軽くたって、switchをかけられた状態で普通に話すのはキツイ。躰は清宮の命令を今か今かと待ち侘びて、言いなりになったその先で与えられる快楽を期待している。けど、そんな躰の思うままに動くわけにはいかなかった。
ハァハァと荒い息を吐きながら、それでも自分の意志を持とうと踏ん張る。それが、switchを軽くかけた清宮の意志でもあるからだ。
「そいつ…は…おまえの」
「ハジメは俺の従兄弟。何でもかんでも俺の物を欲しがるクズ」
「…もと…パートナーじゃ、ねぇの…?」
「伊沢くんは本当に鼻が利かないね。そこが可愛いんだけど、今は心底憎たらしい。…ハジメはDomでもSubでもない、ただのゲイだよ」
「え…? でも……でも首輪…カギ…」
ぽかんと清宮を見上げた俺を、奴は鼻で笑った。
「こいつの家はD/S専用の首輪を作ってんの。ハジメは鍵担当。だからコレだって簡単に外せる。ハジメに唆されたんでしょ? 首輪、外してあげるって」
無意識に俺の目が泳ぐ。そんな俺に向ける目を鋭くした清宮は、乱暴に首輪を引っ張り俺を吊り上げた。
「そんなに外したいなら、お望み通り外してあげる。もう、必要ないもんね」
「なっ、や…!」
咄嗟に抵抗していた。けれど、あれだけ苦労しても外せなかった首輪の鍵は清宮の手によってあっけなく開錠された。漆黒の首輪が、俺の首からズルリと滑り落ちる。
鈍い音を立てて床に落ちた首輪。俺はそれを目で追って…思わず、手を伸ばして…。
「…ッ!」
あと少しで手が届くその場所で、俺は清宮に手を甲から踏みつけられた。
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