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Ⅲ:10
「も、やだ…俺…ばっかり」
「…何が?」
ボロボロと落ちる涙は、唇を噛んだって止まらない。そのまま酷い顔で清宮を睨みあげれば、奴は少しだけ戸惑ったようだった。
「お前は…いいよな。いっぱい、相手いるんだから。でも、俺にはお前しかいねぇもん」
「…俺だって伊沢くんだけ」
「ウソつくなよ! 俺以外だって、相手にしてきたじゃねぇか!」
ヒッ、と喉が引きつれる。
「こんな、こんな首輪なんか貰ったって、なんも意味、ねぇじゃねぇか。特別でも、なんでもねぇじゃんか」
首輪付きのSubは、Domの特別である証。このSubには触るなと、別のDomへ向けた牽制そのもの。首輪を貰って優越を感じないSubはいない。けれど清宮は、そんな自分の首輪付きの目の前で、何度も何度も別のSubを、またはDomを相手にしてきた。
例えそれが〝Kneel〟の一言で済む簡単なプレイであっても、そいつらが俺に向ける視線は雄弁に物語っていた。
お前は特別でもなんでもない、と。
「有っても無くても同じモンなら、無い方がマシじゃねぇか! 特別でもねぇのに、コレのせいで殴られて、妬まれて、蔑まれて」
「特別だよ」
清宮が、ボロ泣きする俺をギュッと抱き締めた。
「言ったじゃない、君は特別だよ」
「ウソだ」
「嘘じゃないよ、俺には伊沢くんしかいないもの」
「でも他のヤツ、」
「アレは…アレは、ちゃんと人、選んでたの分かんなかった? あぁ…そっか、勘違いしたから妬いてくれたんだね」
「…?」
清宮が、慰めるように俺の短い髪を優しく撫でた。
「俺が相手にしてたのは、全部〝予備軍〟だよ」
予備軍? と首を傾げると、清宮は俺の耳元で大きな溜め息を吐いた。
「予備軍ってのは、あそこで無視することで、後々俺じゃなくて伊沢くんを傷つけに来るタイプのヤツのことね。無視したいのは山々だったんだけど、四六時中君の側に居るのは無理だから…だから、そいつらの気が少しでも紛れるように、適当に相手してたの」
「…俺…?」
「うん、君を守りたくて。でも、途中でちょっとだけ、楽しくなったのもホント」
さっきよりもずっと強く、清宮が俺を抱きしめた。
「だって、初めて伊沢くんが俺に妬いてくれたから…嬉しくて」
「妬いてねぇし」
「妬いてたよ」
やっと、いつもみたいに優しく笑った。
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