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Ⅲ:終
◇
カーテンの隙間から溢れる朝日に起こされた。
怠い躰をなんとか持ち上げ起きると、その腰には俺じゃない別の誰かの腕が巻きついていた。
「うぜぇ…」
憎まれ口を叩きながら、そっと腕の持ち主を盗み見る。
こうしてコイツの寝顔を見るのは初めてかもしれない。いつも必ず俺より先に起きていたから。
朝日を浴びてキラキラする男とか、ほんとなんなの。寝ていてもイケメンとか腹しか立たない。何となくイラッとして、腰に回っていた腕を叩き落とした。それでも起きずにぐっすりと眠る清宮を少しだけ見てから、俺は全裸のままベッドから腰を上げた。
「痛ってぇ…」
酷使された躰はあちこち悲鳴をあげた。そりゃそうだ、あれだけガクガク揺さぶり回されれば筋肉痛にもなる。
痛みに舌打ちをしながら、なんとか躰をリビングまで引きずって行って…、漸く俺は忘れ物に気付く。
「アンタ…まだ居たの」
ソファの上でぐったりと横たわる塊は、昨日見た綺麗な女顔を見る影もなく窶れさせて俺を見た。
「…俺のこと、忘れすぎでしょ」
「あれ、首輪外せたんだ?」
「お前らが忘れるからっ、自分でなんとかしたんだよ!」
昨日までの口調を崩し怒鳴る篠原に、へぇ…とだけ言葉を返す。だって、俺にはそれしか言えない。居心地悪くて何となく見回した部屋の中で、ふとゴミ箱が目に付いた。その横に置かれたボックスティッシュも。
「げ、アンタまさか、そこでオナったのかよ」
小さめのゴミ箱に溢れる程入れられたティッシュのゴミ。ここで俺も飯食うのに、と眉間に皺を寄せて言えば、篠原はその目に涙を溜めて叫んだ。
「お前、ホント優しさの欠片もないヤツだね!」
「俺に優しさ求めるのが間違ってンだろ、アホじゃね」
「クズ! 服くらい着ろよ! クズ!」
「それ、アンタもだろ? 何でもかんでも清宮のを欲しがるクズ」
恨めしそうな篠原を鼻で笑えば、奴は唇を噛んで言い放った。
「気付いてないみたいだから教えてやるけど、お前また首輪着けられてるからなッ」
「あ!?」
慌てて首を触っても、そこにはなんの感触も無い。
「それは流石に俺でも外せない」
「はぁ…?」
「馬鹿だよねぇ、恋人なんかになっちゃってさ」
言ってる意味が全く分からん。そんな訝しむ俺に、篠原は最後の爆弾を投下した。
「言っとくけど、元々D/Sパートナーはプレイでセックスなんかしないからね」
「え…?」
「当たり前でしょ? どこにパートナーとのセックスまで許す恋人がいるんだよ」
「でも俺、始めから清宮に…」
「よっぽど特殊な関係じゃない限り、D/Sでセックスなんてしないよ。そんなのノーマルな俺でも知ってる」
お前、ちょっと無知すぎるよ。そう言って篠原が嘲笑う。
その直後に全裸の俺が、清宮を叩き起こして罵詈雑言をぶっかけたのは言うまでもない。が、清宮がそんなことにへこたれる訳が無く。寧ろ…
「なぁにぃ、今更気付いたの? もぉ…ほんと鈍いんだからぁ。可愛い…」
なんて言いながら第2ラウンド(2ラウンド!?)へ突入しようと尻に手をかけるから。
「テメッ、鬱陶しい!!」
今までで一番強烈なビンタを清宮に食らわせることになった。それでもニヤニヤと笑い抱きついてくる清宮に、頭痛しか感じない。
「くっそ…覚えてろよ清宮ぁ…!」
まるで負け犬の様なセリフを投げて逃げるように向かった大学で、俺の新しい〝首輪〟とやらがまたひと騒動起こすのだが、この時の俺はまだ知る由もない。
首の周りにぐるりと回る、紅や紫の歪な形で作られた新しい首輪は。この日から消える間もなく、常に清宮によって鮮やかさを保たれることになる。
だが今の俺は、まだそんな清宮から逃げ出す術を、見つけられずにいるのだ。
END
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