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Ⅳ:1

 朝目が覚めて、一番初めに目に入るのは清宮の寝室の壁。俺の部屋みたいに、壁に埃がくっついてるところなんて一回も見たことがない、汚れどころか傷一つない、真っ白を保たれたクロス。  前に一度それについて聞いてみたら、 『汚れを見つけると、気になって寝れなくなるからさぁ。マメに張り替えてるんだよ』  なんて贅沢なことを、アイツはサラッと言ってのけた。よくよく考えてみれば清宮の部屋はどこもかしこもピカピカで、げぇ! こいつ潔癖かよ? なんてその時は思ったけど、そんな奴が俺のあんなトコやこんなトコを躊躇いなく舐め上げるんだから不思議なもんだ。  のっそりと巨大なベッドから起き上がる。その隣に、清宮の姿はもうなかった。  ふたりで寝ても十分余裕のあるそれに、俺は不満はないが清宮はやや不満を感じているらしい。なんでも「狭いほうが、意識のない間も伊沢くんとくっついていられるもんねぇ」らしい。アイツ、絶対アホだと思う。   「あ、おはよう伊沢くん」  寝起きの気怠さを連れて寝室から出ると、清宮がキッチンからこちらを振り返った。 「いま丁度ご飯できたところだよ。顔、洗っておいで」  俺の躰の隅々まで暴き遊びつくした、昨晩の淫猥なオーラなんてどこへやら。誰もが見惚れる爽やかさで笑う。  肩を越すほど長い、明るい色をした髪を適当に結い上げている清宮。  露わになった首筋はしっかり男であることを主張する太さで、決して女性的ではない。それなのに、結い損なった髪がちらほらと絡みつたそれは妙に色っぽい。  こうして改めてコイツの風貌を見てみると、毎晩見せ付けられる獣臭い、荒々しい面があるなんて到底思えないキラキラ具合だ。ましてや、同性を力づくでベッドに沈めるような奴には見えないだろう。  実際は、驚くほど男臭くて乱暴なヤツだけど。 「お前って、やっぱ二重人格なんじゃねぇの?」 「え~? どうしてぇ?」 「普段と夜と、人が違いすぎんだろ」  壁に寄りかかって毒を吐く俺に、清宮がニヤリと口端を吊り上げた。 「別に俺は、ずっと夜のままでも良いんだよ?」 「ッ、」 「ふ…冗談だよ。早く食べないと遅刻するよ。顔、洗っておいで」  もう一度洗顔を促し俺に背を向けた清宮にホッと息をつく。朝から夜モードに変わられたら、流石に俺の躰が持たない。今だって昨晩の後遺症で歩くのがやっとなのに。 「味噌汁はちょっと温めでよろしく」  それだけ言って、俺は漸く洗面所へと足を向けた。

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