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Ⅳ:2
バシャバシャと大雑把に水で洗った顔を、洗面所の鏡で見つめる。正直自分でも、どこにでも居そうな冴えない男だと思う。
ただ冴えないだけならいいが、目付きの悪さがアダとなってよく輩に絡まれ、弱い立場である事を嫌でも自覚させられてきた。だから俺も、俺以上に弱い奴を見つけては同じことをしてきた。だって可笑しいだろ? 俺だけが損をするなんて。
どんな世界にでも弱肉強食が蠢いていて、弱者が強者に屈するのを当たり前だと言うなら。誰かの手によって俺が損したその後に、俺の手によって損する奴がいても良いじゃねぇか。自分のD/S性が分かってからは、その考え方はあからさまになった。
だが、そんな俺みたいな人間を世間では〝クズ〟と呼ぶらしく、俺は周りからそれまで以上に疎まれるようなった。
鏡に映った、水を滴らせても色男にならないクズ野郎。しかしそんな俺の首には、誰が見ても〝執着〟や〝所有〟の証だと一発で分かる紅や紫の痕がべったりと残されている。それも、極上だと称される男の手によって。
誰からも厭われ疎まれる存在である俺と、誰からも好かれ手に入れたいと望まれる存在である清宮。
本来なら全く相容れない存在である俺たちは、一体どこでどう間違ったのか、一週間ほど前から〝恋人〟なんて言う最も信じられない形で、互いの歩みを重ねることになったのだ。
俺好みの朝食を平らげて、大学へ行く準備をする。
清宮のパートナーとしてこの部屋に出入りするようになってからというもの、俺は殆どの時間をこの部屋で過ごしている。
家賃が勿体ないからと一応部屋に帰ろうとするのだが、そんな俺を清宮は引き止めて、自力で帰れなくなるほど躰を酷使させて、結局起き上がれずここで朝を迎える、なんてことが当たり前になってしまった。
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