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Ⅳ:7
アイツの過去を見てしまった三日前。結局その日は、自分の部屋の煎餅布団に大の字になったまま朝を迎えた。
当然清宮からは連絡が入ったし、それを無視すればアイツがこの部屋まで迎えに来ることは容易に想像できたから、部屋の掃除に時間がかかっていると適当に嘘をついた。
『大丈夫? 俺も手伝おうか?』
自分だって大学へ行って疲れているだろうに、他人の部屋の掃除まで手伝おうなんて一体どこまでお人好しなんだろう。俺の嘘に返された言葉に、思わず頬が緩みかけた。だが、そんな顔もすぐに強張る。
〝清宮は手慣れている〟
受け止め方ひとつで、世界の色はあっという間に変わる。
今まで一体どれだけの人間を、あの見た目と性格と、アイツが持つ全ての物を使って誑し込んで来たんだろう。向けられる優しさだって、俺だけのものとは限らない。
会いたくなかった。あの部屋に、入りたくないと思った。
別に俺は潔癖なんかじゃないけど、今までピカピカに思えていたあの部屋が、急に知らない奴らの手垢で汚れているように感じた。
意識したことのなかった清宮の過去が、俺の中からドロドロとしたコールタールみたいな感情を溢れさせる。それは全身に纏わりついて全ての動きを鈍くさせ、結果、考えることを辞めた俺はあの日から今日までの間、清宮との接触を避け続けている。
大学の中庭にあるベンチに座って、コンビニで調達したおにぎりにかぶりつく。食堂には行く気にならなかった。あの男がまた来るわけでもないのだが、足は自然と食堂を避けた。
日差しに当たればさすがに暑いが、木陰に入れば涼しくて気持ちが良い。そんなせっかくの天気の下でも、俺の胃は重いまま。
「ヤベェなぁ…」
視線を落とせば目に入る、清宮から届いたばかりのメッセージ。今日は逃がさない、と簡潔に書かれた文章からは清宮の怒りを強く感じる。
ヘラヘラと笑っているだけのように見えて、妙に勘の鋭い清宮。さすがに三日も避けられれば異変に気づかない訳がないだろうし、無駄に広いアイツのネットワークに何か引っかかったのかもしれない。
どちらにしろ、今夜俺たちは面と向かって例の話をする羽目になるんだろう。そう考えると気分は落ちる一方で、大好きな炒飯おにぎりも、今日ばかりはなかなか喉を通ってくれなかった。
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