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Ⅳ:9

「やっぱり俺、汚い…?」 「何だよ、自分のこと綺麗だとでも思ってんの? 他人の手垢だらけのお前が?」  ハッ、と清宮を嘲りながら、荒々しくソファに腰を下ろした。  いつもはしっくり躰に馴染むソファも、今日はなんだか座り心地が悪い。それに部屋のあちこちから他人のニオイがする気がする。壁もソファも、空気も何もかもが汚れて濁っているように思えて、呼吸することさえ億劫になった。 「SubどころかDomにまで手ぇ出してんだから、そりゃすげぇ数いくよな。さすがにドン引きしたわ」 「…D/Sの相手とそんな関係になったことは、ないよ」 「本番ヤんなきゃノーカンってか? 馬鹿にすんなよ。お前らがどんなプレイしてたか、お節介な奴らが教えてくれたから全部知ってんだよ」  大学内、駅、バイト先。色んなところで色んなやつに捕まり、お前は特別なんかじゃないんだと散々嫌味を言われた。それでもD/Sパートナーからスタートした相手で、最後までヤっちまったのは俺が初めてだって聞いてたから。 〝恋人〟なんてやつに昇格したのは俺だけだって聞いてたから、そいつらの言うことも単なる僻み妬みだって処理できた。俺のことが羨ましくて仕方ないんだって、むしろ優越を感じてたくらいだ。  でも、セフレの顔を見せられたら今までの認識が全部ひっくり返った。 「来る者拒まず去る者追わずで入れ食い状態だろ? 実際ここにもどんだけ連れ込んだんだよ。あっちこっちで盛りやがって、お前の下半身バカになってんじゃねぇの? あ~、なんかこの部屋くせぇかも。あれ、このソファもくせぇきがすr……ンぶぅっ!?」  清宮を怒らせたい衝動に駆られてめちゃくちゃ言ってたら、突然、凄い力で顔をソファに押し付けられた。 「本当に臭うか、ちゃんと嗅いでみなよ」 「んぶっ、やめっ! んぐっ」 「どう? 臭う?」  再度強く押し付けられた後、俺の頭は清宮の手から呆気なく開放された。 「ぶはっ! おまっ、何すんだよ!」  飛び跳ねるようにして起き上がった俺に、清宮は真顔で聞き返す。 「ねぇ、臭った?」 「くせぇくせぇ! めちゃくちゃくせぇ!」  本当はニオイなんて何もしなかったけど、ムカついたから嘘をついた。でも、清宮は怒るどころか何故か嬉しそうに表情を崩した。 「だとしたらソレ、伊沢くんのニオイだよ」 「え…?」  意味が良く分からずフリーズした俺は、肩をトン、と押されただけで簡単にソファに躰を沈める。仰向けに倒れたその上に、清宮が伸し掛かった。 「確かに俺は、今まで散々色んな奴を相手にしてきたよ。それは認める。単に断るのが面倒だったこともあるし、ただ抜きたかっただけの時もある。DomでもSubでもノーマルでも、男でも女でも、相手なんて別に誰でも良かった」 「最低なヤツ」 「それで良いと思ってたんだ。でもね、今は心底そんな過去の自分を消し去りたいよ」  細長くて綺麗な指が、俺の唇をツンと押した。 「伊沢くん、キスは俺とが初めてだよね?」 「………」 「キスも、エッチも、俺が初めてだよね?」 「だったら何だよ、馬鹿にしてんのかテメェ!」  振り上げた手は、清宮によって簡単に止められる。 「馬鹿にするわけないでしょう。むしろ嬉しすぎて気が狂いそう」 「もう狂ってんだろ!」  思わず叫べば清宮は楽しげに笑った。

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