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Ⅳ:10
「確かに狂ってるかも。俺、君に出逢ってからおかしくなっちゃった」
「俺のせいかよ」
「そうだよ。全部全部、伊沢くんのせい。キスだってエッチだって、自分からしたいなんて思ったこと一度もなかったのに、伊沢くんを見ると抱きたくて仕方なくなるんだ。俺、結構潔癖なところあるからさ。誰かを家に上げるなんてこと、身内だって許したことないのに、伊沢くんはむしろ閉じ込めちゃいたいくらいだし」
躰が本能でビクリと揺れる。
「監禁とかやめろよ…」
「しないよ。伊沢くんが俺から逃げない限りはね」
「………」
「この家に入ったのは、俺以外では伊沢くんが初めてだよ。ハジメが来たのは想定外。だからそのソファからニオイがするなら、それは伊沢くんのニオイ。この部屋の記憶には、俺と君以外は存在しない」
俺に伸し掛かったままの清宮が、自身の胸元を鷲掴み、眉をぎゅっと寄せた。
「誰に何を言われても平気だった。それなのに、君に言われることは全てが響いて…ここが死ぬほど痛くて、苦しい。汚いって自覚、あるよ。だから俺が君に触ったら、君が穢れる気がして本当はいつも怖い。でも好きすぎて我慢することもできなくて…、こんな気持ち初めてだから、どうしたらいいのか分かんなくて…」
「お前、もしかして俺が初恋?」
「え?」
清宮がぴたりと動きを止めた。
「だって普通、好きだったら自分から触りたいって思うもんなんだろ? で、そう思った相手は俺が初めてなんだろ?」
「うん。触りたいと思ったのも、一緒に居たいと思ったのも、全部伊沢くんが初めて」
「だったらそれ、初恋なんじゃねぇの? お前、俺に初めて恋しちゃったんじゃねぇの?」
「……うん、うん、そうかも。俺、これが初恋かもしれない」
「なんだそれ、ウケるな!」
心底驚いたって顔を見せた清宮に、俺は腹の底から笑いがこみ上げた。俺は多分、この時怒りを忘れたんだと思う。
「遊び人なお前が、初めて好きになった相手が俺とかすっげぇ笑える」
「確かに笑えるね」
「で、初めて恋しちゃった気分はどうなんだよ」
「……面倒くさいかな」
「はぁ!? てめ…ふざけんなよ!」
「だって、逃げる相手を追いかけるのも初めてだし、避けられるのも初めてだし、必死で言い訳考えて、仲直りしようとしたのだって初めてなんだよ。初めて尽くしでどうしたら良いのか全然わかんない」
「ふーん」
「伊沢くんはどうなの? 恋人ができたの初めてでしょ?」
「決めつけんなよ」
「え、じゃあ居たの?」
「……いない」
「あははっ!」
「笑うな! お前だって初心者のくせに!」
そう言ってから、大事な部分を否定し忘れたことに気づいた。
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