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Ⅳ:11

「あっ! 俺はお前のこと恋人とか全然思ってッ」  最後まで言い終えられぬまま、清宮に唇を奪われる。 「ん…ふ、ん…ぅ」  反射で侵入してきた舌に自身の舌を絡み合わせた。にゅるにゅるとした妙な感覚はとっくに慣れたものになっていて、今では気持ちよささえ拾い上げられる。 「恋愛初心者のくせに、こんなにキス、上手くなっちゃって」 「うるせぇなぁ、お前が仕込んだんだろうが」 「ヤバい、それクる」 「は!?」  清宮が固くなった下半身を俺にこすりつけてきた。 「オイっ、やめろバカ!」 「痛ッ」 「それより清宮、お前の味噌汁食ったのって、俺が初めてか?」 「え?」  清宮が擦りつけていた腰を止めてキョトンとする。 「お前の手料理食ったの、俺以外に誰かいんのかよ」 「いないよ、家族にも作ったこと無いし」 「ふーん」 「何で?」 「別にぃ」  清宮は適当な返事をする俺をジッと見ていたかと思うと、徐ろに口を開いた。 「ねぇ、伊沢くん。自分から俺に触りたいって思ったこと、ある?」 「はぁ?」 「俺を独占したいって思ったこと、ある? 俺は毎日思ってる。君に触れたくて仕方ないし、君を俺だけのモノにしたい。伊沢くんは恋人の俺に、自分から触りたいって思ったこと、ある?」  どこか期待したような目で俺を見ていた。 「さぁな」 「そっか……ッ!?」  何の前触れもなく清宮の手を引っ張り、自ら顔を寄せて、俺は目の前の唇にキスをした。 「触りたいかどうかなんて知らねぇよ。ただ、お前とヤったことある奴も、お前とD/Sのパートナー組んだ奴も、お前と楽しそうに友達やってる奴も全員気に入らねぇし消えろって思ってる。そいつらを相手にしてたお前自身も死ぬほどムカツク」 「伊沢くん…」  過去のこととは言えモヤモヤして、すっきりしなくて気分が悪かった。清宮の事を思い出せば嫌味と悪態しか浮かばなくて、案の定会えば喧嘩を吹っかけてしまった。  どっかで殴り合いの喧嘩になることも覚悟してた。でも、結局俺の思ってたような激しい言い争いになんてならなかった。  清宮が、全然怒んねぇから…。 「何かもう、どうでもいいわ。一人でキレてんの疲れた」 「もう怒ってないの?」 「お前こそ何で俺にキレないわけ?」 「怒んないよ。だって、俺はどっちかっていうと嬉しかったし」 「なんだそれ」 「だって今回の伊沢くんのソレって、ヤキモチでしょ?」 「はぁぁぁああ!? ばっ、なにっ、はぁ!?」 「避けられるのは辛かったし、めちゃくちゃ焦ったけど…嬉しかったよ」 「ヤキモチなんか焼いてねぇしぃ!?」 「嘘つきな伊沢くんも、かぁわいぃ~」  振り回した両手はまた簡単に捕まって、指を絡められ、そのまま濃厚なキスを仕掛けられた。それを、俺が拒むことはなかった。  大量に溢れ出ていたドロドロはいつの間にか鳴りを潜め、気付けば、もっとずっと別のものが溢れていた。それは今まで見たこともない程キラキラしていて眩しい。  部屋の中の空気は澄んでいた。壁も、床も、ソファも浴室も寝室も、今見れば全てがピカピカに見えるんだろう。それもきっと、いつも以上に。 「俺はどこの乙女だよ」  自分自身を嘲りながら、俺は清宮に求められるがまま、伸ばされたその手を期待に震える素肌で受け止めた。

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