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Ⅳ:15

「ひ…ひや…ぁ」  スイッチをかけられたのだと理解した。それも、酷く中途半端に。  普通なら切り替えはあっという間だ。だが今の俺は、まだDomの部分を残されている。コレは以前にも経験した、理性を残したまま弄ぼうとしている時のやり方だった。  俺は必死で清宮の躰の下から這いずり出た。  今の清宮は、強いDomのオーラと支配欲をダダ漏れさせている。あんな状態のDomに遊ばれたら、この躰は一体どうなってしまうんだろう。そう思うと怖くて仕方なかった。  既に脱がされてしまった下半身は丸出しで、上半身に全てのボタンが外れたシャツを羽織っているだけという、何とも残念な格好で這いつくばって逃げる。 「どこに逃げる気?」  後ろで笑い声がする。余裕のあるそれに苛つく暇もなく、俺がなんとか逃げ込んだのは寝室の入口。ここで扉を閉めて籠城して、自然にDomに戻るのを待とう。そう思って、三日前に見たあの真っ白で傷一つない壁に手をついて、なんとか立ち上がったその時だった。 「はい、捕まえた」 「ひっ…!」 「伊沢くん、聞こえなかった? Kneelだよ」  躰が恐怖に震えた。目の前のこの男は、今の俺にとっては絶対君主。その主の言う事を聞かなければ、俺の求めるものは何一つとして手に入らないだろう。そこにはきっと、苦しみしか残らない。…この人には、逆らってはいけない。  俺の中のSubが割合を増した。 「ぁ…は…はぁ…」 「うん、良い子だねぇ」  震える躰でなんとか足元にお座りをした俺の頭を、君主がかき混ぜるように撫でる。たったそれだけで、俺の昂ぶりは歓喜の蜜を更に零した。 「じゃあ、もう一度その壁に手をついて立って」  言われるがまま、ガクガクと震える足をなんとか叱咤し、壁に手をついて立ち上がる。ひとり壁に向かって立っている俺の下腹に、後ろから清宮の手が回され、グイと引かれた。そうして取らされた体制は、手を壁について足を開き、尻だけを清宮に突き出したもので。 「あっあ…、ひあぁぁあッ!」  君主は、何の前触れもなく俺の中へと入って来た。最初から容赦のない穿ちに、躰は完全に壁と一体化する。その度に俺の前が壁に擦れて堪らない。 「ひっ、んあっ、あっ、いぅ」 「あれ、ダメだよ伊沢くん。壁が汚れちゃってるじゃない、どうしてくれるの?」 「あっ、あっ、ごめ…なさっ、あっ」 「仕方ないなぁ。じゃあ、ちゃんとお尻だけでイけたら許してあげる。どう、できる?」  そんなこと、できるんだろうか。返事をしない俺に清宮の声のトーンが下がった。 「ご褒美欲しくないの? できないなら、ずっとこのままだよ」 「あ…ぁ、やだぁ…」 「うん、嫌だね? じゃあ、ちゃんと言われたこと、できるよね?」  ただコクリと頷いた俺の肩口で、清宮が微かに笑った。 「ああぁああっ! あっあっ、アァッ、ひやっ! あっ」  後ろからの穿が激しくなった。ただひたすらに、中で感じる一点を強くこすり上げられる。 「やっ、ヤァあ! こわっ、怖いぃぃッ」  何かが奥から押し寄せてくる。俺の中の、ずっとずっと奥の方から。 「怖くない、大丈夫だよ。ちゃんと俺が見ててあげるから。ほら、伊沢くんの躰を開放してあげて…?」  言われた瞬間、強張っていた躰の力がふっと抜けた。次に来たのは濁流のような熱の波。叫びたいのに声にならないその快感は、あっと言う間に腹の奥底から頭の芯まで突き抜けていって…。  ガリッ、と壁に爪を立て引っ掻いた。それでもその刺激の波には耐えられなくて、全身がビクビクと震え、結局立っていることさえままならなくなった。  俺の視界は、まるで巨大な花火が目の前で開いたようにチカチカしている。 「伊沢くん、伊沢くん」  ほとんど意識を飛ばしかけていた俺の頬を、清宮がぺちぺちと軽く叩く。そうして漸く、俺の視界はいつもの世界を取り戻した。  はぁ、はぁと荒い息を吐いて座り込んだ俺の前に、ダラリと壁を伝い落ちる白濁した液体。

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