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Ⅳ:16

「ぁ…」  それが自分の飛ばしたものだということを、直ぐに理解することができなかった。 「ちゃんと、後ろだけでイけたね」  壁に垂れる液体を呆然と見つめる俺に、君主が囁く。 「じゃあ最後に、壁、綺麗にしてくれる?」  未だ霧がかったような思考回路で、ただ言われたことだけを噛み砕き嚥下する。そうして俺は、壁に垂れた白濁を舐め上げた。  苦くて、生臭くて、気持ちが悪かった。だけどこれをやれば、きっと俺は褒めてもらえる。俺は、後ろで俺を見下ろしているその男に褒めて欲しい。ただその一心で必死に壁についた汚れを全て舐め上げ、後ろを振り返った。  途端、顎を取られキスされる。 「ンむ…」  今しがた壁から舐めとった自分の欲望を、舌の上から清宮が絡め取る。まるで一滴も残したくないとでもいうように、執拗に舌を吸い上げられた。口端から溢れる唾液さえも逃さず全てを吸い尽くされたところで、漸く清宮の唇は離れていった。 「いい子、よく頑張ったね」  もう一度だけ軽く啄むキスを与えられ、君主の瞳を見つめた瞬間また、俺の躰から力が抜けた。スイッチが解かれたのだ。  いつもなら直ぐにでも罵声を浴びせてやるのに、今日は疲労が酷くてそんな気にもなれない。ぐったりと清宮にもたれ掛かったまま、荒い呼吸を繰り返している俺の頭を清宮が優しく撫でる。 「ごめん…俺、ちょっとブッ飛んでたかも」 「鬼畜…」 「ごめんね? 何でも言うこときくから…許して」  つい数秒前まで俺様の王様の鬼畜様だった男が、目の前で突然シュンと項垂れる姿はなんだかシュールで、それから少しだけ、本当に少しだけだけど…可愛いと思ってしまった。  正直、好きだとか愛しているだとか、そんな歯の浮きそうな言葉を吐く気は一生ない。清宮だって無理矢理言わせることはしないだろう。  けど、多分…今回の騒動で、俺さえ自覚のなかった感情や想いは大方バレてしまっただろう。だったら、抗うのも必死で隠すのも、何だかもう面倒臭い。 「もう一回しろよ」 「……えっ!?」 「さっきのじゃなくて、普通のやつ。後ろからじゃなくて、ちゃんと向き合ってしたい」  清宮が、まさに絶句…なんて顔をするからいたたまれなくなった。やっぱり素直になるのは向いてない。小っ恥ずかしすぎて顔に血がのぼる。目だって合わせられないから、清宮に更にしがみついて顔を隠した。そんな俺を、清宮が強く抱き締めた。 「今度から、どれだけ避けられても会いにいく。直ぐに連れ戻しに行くから」 「…おう」 「その前に、もう逃がさないけど」  ヒョイと躰を抱き上げられて、素早くベッドへと移される。そのまま上に覆い被さった清宮は、俺に噛み付くようなキスをした。どこかのぼせたような表情の清宮に、俺もまた、噛み付くようなキスを返した。  そしたらまた噛み付き返されて、また俺も噛み付いて。何度かそれを繰り返して、やがてお互い我慢できなくなって笑った。  そのまま俺たちは、初めてじゃれあうようなセックスをした。  時々くすぐったいと笑って、喘いで、怒って、また喘いで、笑って。俺たちは戯れるようなセックスをした。  嫌いじゃないと思った。  強制的に快楽を引きずり出されるD/Sのプレイは少し苦手だけど、こんな風に躰を重ねられることが恋人の特権なら、この関係も案外、悪くないかもしれない。

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