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番外編:2018年年越し

「ねぇ、伊沢くん。ねぇ、」  肩を揺すられ瞼を薄らと開けると、目の前にきらきら輝く男が立っていた。 「……なに」  ヒリヒリと痛む喉が、カサついた声を絞り出す。それがちゃんと耳に届いたようで、目の前の男はきらきらきらきら、きらきらきらきら光りながら表情を崩す。 「凄い声だねぇ」 「誰のせいだよ」 「あは、ごめんねぇ? ところでさ、もう直ぐ日付け越えるんだよね。初詣行くぅ?」  俺は部屋中に響く音を立てて舌打ちをした。 「何が〝ところで〟なんだよ! お前、この姿見てよく笑えんな! クソボケ!!」  ベッドに横たわったままの姿で、枯れた声だけを投げつけた。本当なら今すぐ蹴り倒した上で殴りつけてやりたい。でも、それが今はできない。なぜなら…、 「うん、本当にごめんね? だって伊沢くん可愛すぎるんだもん。どこ触っても敏感に感じてくれるし、そんな自分に照れて赤くなるしさぁ。それで躰捩って逃げようとして、結局中の良いところに当たって悶えるとかさぁ」 「やぁああめぇぇええろぉおおッ!!」  残っていた力を振り絞って枕を投げつける。が、それは男…、清宮の足元にも届かず落ちた。  大晦日である今日の夕方。シャワーを浴びて出てきた俺に、夕飯ができたと清宮が呼びに来た。いつも通りなら、そのまま普通に飯を食っていたはずだったんだ。だが、どうしてか。 『…ごめん伊沢くん、ご飯の前にちょっとだけ…』  変なスイッチが、入った。 「お前! 先っぽだけって! 先っぽだけって言ったよな!?」 「本気でそのつもりだったんだよ? でもさ、先っぽだけでも君の中入ったらさぁ、やっぱり全部入れたくなっちゃってさ」 「ふざっけんな! 俺は一回だけって言ったのに! おまっ、おまっ!!」 「だって一回入っちゃったらさぁ、どれだけだって中にいたくなっちゃって」 「だからって潰すんじゃねぇよボケェエ! うぐっ、」  ベッドのマットレスを殴れば、それは清宮ではなく俺自身を苦しめた。 「うぅうぅ…」 「え、大丈夫? そんなに腰痛いの?」 「痛ぇに決まってんだろ! 容赦なく奥ガンガン何時間も突きやがってクソがぁ…」 「ちょ、その言い方やめて。下半身にクるから」 「アホかテメェ」  再び俺は、ばたりと脱力し横たわった。なんか、全てがアホらしい。そんな俺を見て流石にマズイと思ったのか、清宮が眉を下げてベッドに腰掛けた。 「ごめん、ごめんね?」 「お前の〝ごめん〟はなんの意味も無い」 「伊沢くん…」  泣きそうな声を出しながら、俺の腰を優しく何度も撫でる清宮。俺が奴を虐めてるみたいで嫌になる。大きな溜め息を吐けば更に情けない声をこぼすから、俺は思わず吹き出した。 「はっ!」 「伊沢くん?」 「お前のそう言う顔とか声、俺しか知らねぇんだろうな」 「え?」  腰を撫でていた清宮の手を取って、何とか躰の向きを変える。目の前にある広い背中。そこに、指を滑らせた。 「伊沢くん、ちょ…そんな触り方したら俺、」 「旨い雑煮が食いたい」 「んっ、作る、作るから」  ゴキュ、と清宮の喉が鳴る。指は煽るように背中を流れ腰を伝い、足の付け根を撫でた。 「伊沢くんっ、ダメだってほんとにシたくなるからっ! うっ!?」  完全に反応しきった清宮のソレを握りこんだ。 「醤油と、味噌の二種類な?」 「……手加減、無理だからね」 「苦い葉っぱ、少なくしてな」 「もち菜、ね。抜いたげる」  労わるって言葉を知らない動きで俺は仰向けにされて、唇と、躰の奥深くをあっと言う間に犯された。 「ん、ゆる…くても、しらねっ」 「十分、キツイよ。…最高」 「あっ、は…あっ! あっ!」  ギシギシと、ベッドよりも軋む俺の躰。腰から走る痛みに快楽へ集中することができない。それでも、俺は清宮を止める気にはなれなかった。  毎日毎日、腹が立つ。コイツが笑ってても、泣きべそかいてても、何をしてても腹が立つ。それと同じくらい、気分が良くなるっていう不思議現象。  それを俺にだけ見せているんだと思うと、イラっとしたその瞬間にもう、絆されてる。つくづく俺も、この男には甘くなったもんだ。  酷く軋む自分の躰と、感じすぎて感覚が鈍くなった躰の中に、ひとり笑った。  気付けば時計の針は二時を指していた。 「伊沢くんと姫始めできるなんて、俺って死ぬほど幸せ者」 「バッカじゃねぇの」 「声、さっきよりも酷くなってるね」  笑う清宮を睨みつけても、その笑みは消えたりしない。 「初詣、行く?」 「行くわけねぇだろ」 「だよね」 「今日は家がいい」  清宮が、俺の髪をすいた。 「ふたりきりで、ゆっくりしようね」 「もうヤんねぇからな」  返事をしない清宮に、俺は深く溜め息を吐いた。俺はいつか、コイツにヤり殺されんのかもしれない。 「ま、それでもいいけど?」  なぁーんて、な。 END

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