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番外編:MEMORY ①

 嫉妬、妬み、怒り、恨み、焦燥。  誰もが持つそんな感情が、まさか自分から欠如していたなんて。 『好きじゃなくてもいいから』 『他に相手がいてもいいから』  付き合った相手やパートナーから、幾度となく言われてきたその言葉。 『ちゃんと好きだよ?』 『君だけだよ?』  俺がにっこり笑って言ってみせても、相手はいつだって悲しげな表情しか見せてはくれなかった。それがどうしてなのか、自分の何が悪いのか、分からぬまま結局別れの瞬間は訪れる。 『やっぱり、耐えられなかった』 『うん、そっか。仕方ないね』  告げられた別れの言葉に笑って返せば、今度こそ相手は泣いて見せるのだ。  黙って泣くくらいなら、不満を言えばいいのに。そうは思っても、別れたいと泣いた相手を引き止めてまで、理由を聞き出す気にはならなかった。今思えば、面倒だったのかもしれない。  泣いて縋る相手を無様だと思うことはあっても、そうしてまで手放したくないと思える恋をしたことがなかった。  だけどそんな自分こそ、酷く退屈で寂しい道を歩いていたんだと…俺はあの日あの時、彼に出逢ってから嫌というほど思い知ることになる。

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