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番外編:MEMORY ②

 ◇ 「清宮くん、頼みがあるんだけどさ…」  偶然の出来事だった。あまり引き受けることのない、自分の存在を餌に使った飲み会への誘い。それを、気まぐれに受け入れた。 「いいよ」  相手が安堵の表情を浮かべても何も感じない。ただこの時は、日常がスムーズに進めばそれで良かった。そんな俺にとってはちっぽけな選択が、その後の運命を大きく変えてしまうことになった。  思った以上に人の集まった飲み会は、案外楽しかった。  男も女も、必死で俺の意識を自分に向けようとするその様が、まるでムキになっている幼い子どものようで可愛く思えた。だがそれでも、ドムやサブが居ないこの場は少々味気ない。  適当に笑顔を浮かべ、愛想を振りまく。そうして無意識に撒いた餌に獲物が食いつくのも時間の問題だが、その獲物に深く興味を持てるかどうかが大きな課題だった。 〝普通の人〟ほど深みのないものはない。それなりに楽しむことはできるが、直ぐに飽きてしまう。  痛みが快楽に変わる瞬間を知っている人間の、あの甘美な眼差し。それが俺の心を楽しませてくれるのだ。  飲み会を楽しむことはできたが、今日参加したのはある意味失敗だったかもしれない。興味を持たれても、期待されるものを返してやることができないから。  何杯目か分からなくなった酒のグラスを手に握ったところで、漸くタイミングを掴んだとでもいうように一人の青年が前のめりに声をかけてきた。 「なぁなぁ、清宮くん。ドムの必殺技使えるって、マジなの?」 「…必殺技?」  何それ、と一瞬首を傾げるが思い当たるモノが一つ。 「ああ、〝switch〟のこと?」  そう口に出して言えば、青年は大きく目を見開き期待に瞳を輝かせた。 「え、やっぱりあの噂ってマジなの!?」 「それってどんなドムでも相手にできんの!?」  待ってましたと言わんばかりに、別の青年が混じってきた。周りの学生たちも、みんな食い入るようにこっちを見ている。 「うん、まぁ…少しでも素質があればイケると思うよ」 「マジかよ! 俺たちその噂聞いてたからさ、今日やってみて欲しい奴連れてきたんだよ!」 「ぜひ今から実践して見せて欲しいんだけど、どう!?」 「うーん、俺にも一応好みがあるんだけどなぁ。どんな子ぉ?」 「アイツ! 伊沢っていうんだけど」  遠くでひとり、退屈そうに座っている青年を指さした。俺の席からは遠く、彼がこの飲み会に居たことを今、知る。 「見た目はちょっとアレだから、清宮君には悪いんだけどさ。伊沢、マジでドムの風上にも置けない様なクズでさ。お仕置き的な感じでどう?」 「…ふぅん」

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