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 前川さんが貸してくれる本がいつも【美形×平凡】だからと言うのもあるが、回ってくるBL漫画を読むたびにキャラを自分と兄にすり替えて妄想してしまう。そんな自分が異常だと分かっているのに、気付けばどうしても妄想してしまい止められない。  その上、自宅で前川さんに漫画の感想をメールしているとほぼ100%の確率で兄の機嫌が悪くなるのだが、それもまた妄想に繋がる始末。  何だかこれ以上先に進んだらマズイ気がして、僕は借りた本を前川さんに差し出す。 「あのさ、悪いんだけど…僕もう本を借りるの」  やめるよ、と口にしようとしたところで、教室の中に高すぎず低すぎずの聞き易い声が響いた。 「ケイ!」 「え、葉兄!?」  高校に入学して半年。  兄と同じ学校へ通っていると言うのに、僕らが兄弟だと知る人は殆んど居なかったし、気付かれることも無かった。これだけ似ていなければ仕方ないと思うし、校内で一度も関わった事が無いから尚更だった。  だからこそ僕を呼んだ兄に、また兄を“葉兄”と呼んだ僕に教室がざわついた。  兄はその整った容姿と硬派な雰囲気で人気を誇っており、既に一年生の間でも知らぬ者は居ない程有名だったから。 「な、なに? どうしたの?」  教室の入口で不機嫌そうにしている兄に駆け寄れば、暫く僕を睨んだかと思うと徐ろに「弁当」と口にした。 「え?」 「弁当寄越せ」 「え!?」 「忘れたんだよ、だから寄越せ」  何たる横暴さ。流石にムッとして言い返す。 「朝カバンに入れてたじゃない、僕見てたよ?」 「うるせぇな、つべこべ言わずに渡せチビ」 「ち、チビ!?」  僕が一番気にしている事なのに!と一瞬頭に血を登らせるが、この兄が僕との言い合いで引いたことなど一度も無い事を思い出す。今回も抵抗するだけ無駄なのだろうと、急いで席から弁当を引っ掴み兄の目の前にかざした。 「僕のご飯が無くなる」 「購買で買えよ」  そう言って弁当を奪い取り、僕越しに教室の中をちらっと見た兄は、何故だか眉間の皺を増やしてそっぽ向いた。そのまま去っていく兄の背中を見送りながら、僕はハッとする。 「購買のパンって、すぐ売り切れちゃうじゃん!」  休みに入って既に十五分は経過している、もう遅いかもしれない。僕は半べそをかきながら、前川さんと話をしていた事も忘れて慌てて購買へと走った。  そうしてその日の夕方、自宅にて空になったふたり分の弁当箱を見つけた僕は、ひとり憤慨することになる。    そんな僕に人生が狂う程大きな事件が起きるのは、この日からひと月程経ったある日の事だった。

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