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「え、今日から三日間ふたりきり!?」  前川さんが鼻息を荒くして僕の顔を覗き込む。事情を知らない男子たちは僕を恨めしそうに見つめているけれど、この状況はそれ程いいものではない。  ひと月程前、兄が僕の教室に現れたあの日。何とか購買でジャムパンをゲットして戻った僕は、話の途中で抜けたことを前川さんに詫びると共に、漫画の貸し借りを辞退したいと申し出た。前川さんは酷くがっかりしていたけど、それでもちゃんと了承してくれた。だがその代わり、ひとつだけお願いがあると言ってきた。 「筒井先輩とふたりきりなの!?」 「うん、両親がこの連休使って結婚二十周年の旅行に行くとかで、今日から…」 「やったぁ~! ちゃんと報告してね!? 毎日だよ!?」  前川さんのお願いは、『僕と兄の生活を詳しく教えること』だった。  それ故に兄の傍若無人さを暴露する羽目になったのだが、前川さんは悶えるばかりで僕を気の毒に思ってはくれない。そして僕はといえば、BL漫画は読まなくなったはずなのに未だ兄との妄想を止められずにいる。それどころか、最近では兄との妄想を夢にまで見てしまい、その余りのエロさと生々しさに下着を汚して起きる程だ。  流石にそんな朝は兄の顔を直視する事が出来ずにいるのだが、それが気に入らないのだろう兄の機嫌が急降下するという、負のループをぐるぐると回っている。 「僕…困るよ。そんな、ふたりきりだなんて」  流石に兄で妄想しているなんて、まして夢精までしているなんて前川さんには言えやしない。だが、あの唯我独尊男には大層困らされていると話しているので、前川さんは僕のセリフに大して疑問を持たなかった様だった。 「何言ってんの!? その俺様気質が最高なんじゃない! 弟を奴隷の様に扱うくせに、女が近づくと威嚇するとか…もうっ、もうっ!!」 「痛っ! 痛いよ前川さんッ!」  興奮した前川さんに叩かれ背中がヒリヒリする。しかも“女を威嚇”とか、言っている意味もよく分からないし。 「兎に角、今夜から連絡開始してね。あ、何か激変した時は是非電話して! 番号教えるから!」  最初の頃とイメージが大きく変わった前川さんに、僕は恐怖すら感じながら無料アプリ以外の連絡先を交換する。これが、事件の引き金となるとも知らないで…。

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