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続!①

「オイ、珈琲」  ソファに深く腰掛け、長い脚を組んで雑誌を読む兄、葉介。  その姿は二週間前の、あの淫猥な三日間を経験する前と全く変わらなくて、アレは全て僕の妄想だったんじゃないかと思えてくるほどだ。 「オイ、聞いてんのか? 何ボケっとしてんだチビ」 「…ハイハイ」 「あ? ハイは短く一回だろ」 「はいっ!」  新たな世界へ進むどころか、甘さなんか一ミリもない奴隷の日々に逆戻り。 「風呂も入れとけよ」 「はいっ!!」  慌てて兄の為に珈琲をいれて、浴室へと走る。少しでもモタつけば殴られかねない。先日変えたばかりの、真新しい穴ぼこチーズみたいなスポンジを握り締め、僕は盛大な溜め息を吐いた。  旅行から戻って早々、土産話に花を咲かせる両親と、僕は目を合わせることができなかった。だって無理矢理だったとはいえ、僕は葉兄と、血の繋がった実の兄と〝あんな事〟をしてしまったんだ、両親の顔なんて見られるわけがない。それなのに、兄は何事もなかったかのように平然と会話ができるんだから悔しい。 「何なんだよ…クソぉ!」  力任せに擦った浴槽の壁は、いつもよりずっと綺麗でピカピカになった。 ◇  相変わらず両親は居ないが、学校がないから寝坊を許される日曜の朝。休みだというのに僕は、いつもよりもずっと早い時間に目を覚ました。見なきゃいけない番組があるからだ。 「あ、ガオガオジャー始まったぁ!」  僕が休日に早起きをしてでも逃したくない番組。それは先週気になるところで終わった、戦隊モノの実写番組だ。  子供の頃から僕は戦隊モノに目がなくて、絶対にこれだけは朝早く起きて見なきゃ気がすまない。それに今回は、僕の大好きなライオンや熊と言った動物がモチーフにされていて余計に興奮してしまう。 「ふあぁぁ、やっぱりパンサーブラックは味方だったねぇ! 悪そうに見えて実は良い奴、とかほんと何フラグだよ…って、」  一瞬、頭の中を別の人物がよぎる。 「いや、ナイナイナイ、無いから。アレは良い奴どころか、本当に悪魔だったから」

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