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続!②
そう、それは二週間ほど前のこと。
両親が家を空けた三日間。僕は実の兄の葉介によって力づくで組み敷かれ、この身を激しく抱き潰された。
それは今までしてきた妄想のどれをも飛び越えて異質で、今度こそ事実で。
スマホを壊されて、首を圧迫された。その間に投げられる言葉の半分も頭に入らず、これから振るわれるであろう暴力に震えた。
僕のよりも遥かに大きな手で首を絞められ、涙が滲む。苦しくて、苦しくて、苦しくて。堪らず兄に縋りついて金魚みたいに口を動かしていたら、そこを兄の唇で塞がれた。
『ンぅうっ!?』
そうして乱暴にスタートした情交は、しかしながら予想を裏切り酷く丁寧に進められた。
巧みなキスに全身が熱を持ち、熱い舌と淫猥に動く指によって蕩けさせられた僕の躰は、抵抗も忘れあっと言う間に兄に従順になって…。
『あっあっ、や、ようにっ、』
『ケイ、力抜け。妄想でもヤってたんだろ?』
『むり…むりぃ! こんな…しらなッ』
『ほら、ゆっくり息吐け』
『はっ、はぁ…あ…ああっ、ひっ、ひあぁあ!』
『くッ』
初めて見た、兄の艶めいた表情に躰が更に熱を持った。
ゆさゆさと揺さぶられ与えられる痛みと快楽に、永遠に喘ぐ。喘いで、吐き出して、また熱を取り戻して、喘いで。僕らは男同士で、その上兄弟だということも頭からすっ飛ばして、空腹にも気づかず永遠に繋がっていた。
そうして三日目には、自ら腰を揺するほど僕は、兄とのエッチに没頭していた。
「ダメダメダメダメダメッ」
ブンブンと頭を振る。折角楽しみにしていた番組をリアルタイムで見ているのに、あんな恐ろしいことを思い出している場合ではない。だいたい、僕をあんな目に合わせた張本人である兄はといえば、あの日から今日まで驚く程いつも通りで、相変わらず僕を奴隷として扱ってくれる。あの事を気にする素振りも見せやしないのだ。
何だか、気にしている僕が馬鹿みたいだ。だから、僕もあの三日間の事はもう考えないことにした。
本当にとんでもない経験をしたし、実際忘れられるわけがないんだけど…でも、相手が無かったことにしようとしているのだ。僕だけ意識しているなんて虚しいだけじゃないか。だから全て無かったことにしてしまおうと、そう決めた。
三十分番組は瞬く間に終わってしまう。
「あぁ~終わっちゃったぁ…。来週まで待てないよぉ。みんなはいつ、パンサーブラックの本当の姿に気付くかなぁ。僕がブラックだったら、ギリギリまで裏切り者として裏で動くよね。だってそれって、孤独だけど凄く格好いいもん! あ、でもでも、敢えてそこでぇ」
一人で物語の先を妄想していると、テレビから流れていた音楽が一気に色を変えた。
「あ! クレプリ!」
クレイジープリティ、略してクレプリ。戦隊モノの後に待機している、女の子向けのアニメだ。小学生らしき女の子ふたりが、ナンヤカンヤと友情を深めながら悪と戦う感じのアレだ。
「これも楽しみにしてたんだよねぇ~」
初めは見る気なんてなかったのに、一度見てしまえば知らぬ間に虜になっていた。女の子用のアニメも侮れない。しかも今期は仲間が死ぬほど集まるらしい。
「そうだ、先週は友達がひとり増えたんだよね。これで遂に十三人!」
テレビの前に寝転んで、オープニング曲を一緒に歌う。
「クレップリ♪ クレップリ♪ プリプリッ♪ フンッフフフンフフフフーン♪」
やっぱり二次元の世界は最高に楽しい。僕をいろんな世界に連れいて行ってくれるし、性別も関係ないし、一時とはいえ全ての悩みから開放してくれる。
ああ、何て幸せなんだろう…。そうしてうっとりとテレビを見上げたその瞬間。
―――ブツッ!!
「えっ!!」
テレビの画面が真っ黒になる。
「なっ、なんで!? なんで、なんっ……」
驚いて床から飛び上がれば、僕の隣にはリモコンを握り締めて立つ兄の姿が…。
「葉兄! なにすんの!?」
「テメェ…朝っぱらからうっせぇんだよ! くだんねぇモン見て騒ぎやがって!」
「やだ! 酷いよ返してよ! 楽しみにしてたのにぃ!!」
「うるせぇ! テメェにチャンネル権はねぇんだよ!」
リモコンを取り返そうとするが、悔しいかな…身長の差がありすぎて、掲げられた兄の手に自分の手が全く届かない。
「やだやだやだぁ! 新しいクレプリが見たいぃぃ見たいんだよぉぉ!」
まるで子供みたいに、床に伏せて手足をばたつかせる。完全にアニメの対象年齢に合わさってしまった僕を、兄は物凄く残念な目で見つめていた。
「クレプリが見たいよぉぉ~」
「…だぁああっ! うっせぇなぁあッ!」
「うわぁあ!?」
ジタバタしていたら、ふいに腕を掴み上げられた。勢いをつけて引っ張られた躰は、そのまま兄の腕の中へと飛び込む。そして、そのまま振り向いた顔を掴まれて…。
「ふンぅう!?」
喚き叫ぶ僕の口は、あの日の様にまた、兄によって塞がれたのだ。無遠慮に入り込んできた兄の舌が、僕の口内を荒々しく掻き回し吸い付いて。
「ンッ、んぅ! んむっ、はぁッ」
ぐちゃぐちゃに荒らされ濡れた唇を漸く解放され、大きく息を吸い込んで兄を見上げる。苦しくて、でも気持ちよくて、訳がわからなくなってる僕の視界は生理的な涙で世界を滲ませている。それでも、性格は置いておいてこの目の前の男は、我が兄ながら男前で本当に良い男だと思う。…見た目だけは。
「ホント、大物だよなテメェはよぉ」
「な…なに…」
「この間俺にあんなことされといて、アニメ見て楽しく歌って妄想してられんだもんなぁ? お前、どういう神経してんの?」
なにそれ…。
言われた台詞に驚きすぎて、僕は何も言い返せない。
「もう一回やってやるから、よーく覚えろよ? 妄想なんかしてる暇、与えてやんねぇからなぁ」
あ、これ死亡フラグだ…。
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