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「あ、やっぱ似合う」
「どーかな」
「オレンジだけどそこまで派手な色味じゃないし。ブラッドオレンジで落ち着いてて、スタンドカラーなとこもオススメ、春先に丁度いい」
「すげー。ガチ店員っぽい」
「正真正銘、店員だし」
北見が真横にさり気なく寄り添うと、姿見を前にして肩を合わせていた航也は、照れた。
店内にいた他の客や従業員の目を気にしているわけではない、ここが北見宅だったとしても彼はきっと同じ反応をするに違いない。
さっと離れ、急いで脱いで、とりあえず値札を見、次は仏頂面に。
「古着なのに高ぇ」
「そこはヴィンテージの古着だからこそ、と言ってほしい」
「どーもです、店員さん」
ありふれた色に髪を染めた、キャンパスに容易く溶け込めそうな、どこにでもいそうな大学生の航也。
カーディガンを元に戻すとジャケットを着込んでトートバッグを肩に引っ掛け、そのまま店を出ようとする。
北見は年下の恋人を呼び止めた。
スパイシーなお香が薫る中、カーゴパンツの後ろポケットに入れていた部屋の鍵を取り出して彼の手に握らせた。
「あのなぁ……レポートあんだよ」
「明日の講義、何時から?」
「昼から」
「じゃあ、ほら、何の問題もない。ウチでパソコン使って書けばいい」
「人んちだと集中できねーんだよ」
そうは言いながらもジャケットのポケットに素直に鍵を仕舞って航也は店を後にした。
舗道に出た北見はしばし恋人の後ろ姿を見送った。
落としたというより。
航也の場合は強引に捻じ伏せた。
いつもなら時間をかけ、落ちていく過程を観察し、そうして抱く優越感に昂揚するのに。
『ばっ、ばかにすんな!』
つい夢中になってしまって。
柄にもなく先走った。
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