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「おかえり」 「ただいま。飯どうした?」 「テキトーに食った」 夜九時過ぎに帰宅してみれば、航也は自前のUSBを差した北見のノートパソコンでレポート作成中だった。 白のスツールに座り、バーカウンターにはパソコン以外に温くなったコーヒー、スマホ、そして鍵が置かれていた。 「コーヒー淹れ直そうか」 「あ、うん、あ、そだ」 忘れてはいけないと、航也は手にした鍵を北見の方へ掲げた。 北見は羽織っていたテーラードジャケットもそのままに黒のスツールに座ると首を左右に振った。 「それ、航也の」 「へ?」 「だから、航也の。ほら、俺のはコレ」 普段持ち歩いている革のキーケースにつけられた鍵を掲げてやれば、航也は、自分が手にした鍵と何度も見比べた。 「合鍵かよ」 泣き黒子の辺りがうっすら赤くなる。 触ろうとしたら顔を逸らされた、素早い、針ネズミみたいに丸まった……ではなく、うつ伏せになられるよりかはマシだが。 しかしふとその眼差しが強張りを帯びたかと思うと。 探るような視線が鍵に突き刺さった。 「何人目のお下がりだろうって、そんなこと考えてる?」 図星だったようだ、自分の髪を片手でぐしゃぐしゃ乱した航也は睨むように北見を見、吐き捨てるように答えた。 「バカなこと考えるよな、俺。前はこんなんじゃなかった」 「俺のせい?」 「そーだよ、あんたのせいだよ、北見さん」 かわいい奴。 お前になら屈してもいいかも。 「ちなみにその合鍵、新品」 「へ」 「自分の領域にはうるさいから、俺。今まで誰にもあげたことない」 そそる泣き黒子に今度は触れることができた。 「航也、俺にらしくないことさせる」 以前、自分が口にした言葉をなぞられた航也は目を見張らせた。 北見が目許に軽いキスを落とせば身じろぎし、でも、拒む素振りはなく。 「なぁ……航也」 「な、なんだよ」 「氷いる?」 「こ、氷……? ッあ、い、いるかッッ!いらねぇよボケッッ!」

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