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5-3
「おかえり」
「ただいま。飯どうした?」
「テキトーに食った」
夜九時過ぎに帰宅してみれば、航也は自前のUSBを差した北見のノートパソコンでレポート作成中だった。
白のスツールに座り、バーカウンターにはパソコン以外に温くなったコーヒー、スマホ、そして鍵が置かれていた。
「コーヒー淹れ直そうか」
「あ、うん、あ、そだ」
忘れてはいけないと、航也は手にした鍵を北見の方へ掲げた。
北見は羽織っていたテーラードジャケットもそのままに黒のスツールに座ると首を左右に振った。
「それ、航也の」
「へ?」
「だから、航也の。ほら、俺のはコレ」
普段持ち歩いている革のキーケースにつけられた鍵を掲げてやれば、航也は、自分が手にした鍵と何度も見比べた。
「合鍵かよ」
泣き黒子の辺りがうっすら赤くなる。
触ろうとしたら顔を逸らされた、素早い、針ネズミみたいに丸まった……ではなく、うつ伏せになられるよりかはマシだが。
しかしふとその眼差しが強張りを帯びたかと思うと。
探るような視線が鍵に突き刺さった。
「何人目のお下がりだろうって、そんなこと考えてる?」
図星だったようだ、自分の髪を片手でぐしゃぐしゃ乱した航也は睨むように北見を見、吐き捨てるように答えた。
「バカなこと考えるよな、俺。前はこんなんじゃなかった」
「俺のせい?」
「そーだよ、あんたのせいだよ、北見さん」
かわいい奴。
お前になら屈してもいいかも。
「ちなみにその合鍵、新品」
「へ」
「自分の領域にはうるさいから、俺。今まで誰にもあげたことない」
そそる泣き黒子に今度は触れることができた。
「航也、俺にらしくないことさせる」
以前、自分が口にした言葉をなぞられた航也は目を見張らせた。
北見が目許に軽いキスを落とせば身じろぎし、でも、拒む素振りはなく。
「なぁ……航也」
「な、なんだよ」
「氷いる?」
「こ、氷……? ッあ、い、いるかッッ!いらねぇよボケッッ!」
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