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深夜二時、草木も眠る丑三つ刻。
そうは言っても週末の街となれば平日以上に通行人がいる、これから三次会という人もいる、お仕事している人だってわんさかいる、眠らない人だらけだ。
「あれ」
お仕事を終え、自宅アパートまでもう少しというところで、タバコや酒の香りを纏わりつかせた北見は目を見張らせた。
「あ、北見さん……」
航也がいた。
黒地に緑のラインが入ったフレッドペリーのポロシャツにスキニージーンズ、白スリッポンで、リュックを背負っている。
「今来た? 遅かったのな」
「あー」
「?」
路上でばったり会ったことに余程驚いているのか、外灯下で硬直する航也に首を傾げ、北見は大股で近寄った。
「あれ。そっちも酒臭い?」
「えーと」
「友達と遊んでた?」
「遊んでたとゆーか」
歯切れが悪く、そんなに酔っ払っているようには見えないが視線が妙に定まっていない。
「ご……合コン、行ってた」
夕方の図書館で、急に欠員が出た合コンに誘われた。
日頃からノートのコピーなどでお世話になっている幹事の友達に頼み込まれてお断りできずに。
一次会だけ、そう約束して参加して。
女子サイドも含めて盛り上がった面々に泣きつかれて二次会のカラオケにも参加せざるをえず。
「さすがに時間迫ってたから、やべぇと思って、幹事に金渡して逃げてきた」
車の行き来がある本道から脇道に入った通り、二人以外、誰も歩く者はいない。
そばにある自販機がたまに低く唸って、タクシーが傍らを通り過ぎていき、頭上の明かりには羽虫が集っているようだった。
「もちろんっ、下心とかなんっもねぇよ? LINEも聞かなかったし、飼ってる猫の写真見たくらいでっ」
「航也」
細身のデニムにツートーンのローファー、グレーのカーディガンを腕捲りした北見は声が大きい航也を注意した。
「今、深夜」
北見さん、これ、怒ってんのか?
ただ呆れてる程度?
いつも通りにも見えっけど。
嫌いなキノコだって何も言わないで食ってくれたし、確かに大人だし、たいていのこと大目に見てくれそーだけど。
それに甘えて我侭放題するわけじゃねーけど。
こんなの、今回限り、今後は断固拒否するし。
怒りはしないかもだけど気分よくねーのは確実、
「度胸あるな」
その場に突っ立ったままいつもよりトーンを落とした声で北見は言った。
「俺と付き合っておきながら合コン行くなんて、大した奴」
え……?
褒められてる……?
つーかいつまでここいんの?
「北見さん、とりあえず帰んね?」
「とりあえず、か、わかった」
大股で踏み出して足早に先を行く北見の背中を目の当たりにして航也はごくっと喉を鳴らした。
北見さん、やっぱ怒ってる?
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