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「それお巡りさんですか?」
「外国の刑事さんみたい、すごく似合ってます」
常連客に喜んでもらえた、生まれて初めて北見が止む無く挑戦したハロウィン仮装は海外風ポリスコスプレだった。
上下黒、両肩はエポレット仕様、半袖にネクタイで胸元にはそれらしきなんちゃってロゴ。
ご丁寧に制帽まで用意されていたので潔くかぶった。
安っぽいカラフルな水鉄砲が入ったガンホルダーつきベルト。
足元は自前のハイカットブーツですんなり合っている。
一重の細長い眼、短髪黒髪、長身、外見自体がすっきりシンプルで無駄がなく、一つ一つ出来栄えのいいパーツ、安定のバランス。
ポリス服まで着こなす北見という男は昔からさり気なくモテていた。
若かりし十代の頃などは、それぞれの好みによって一番目は変わるものの、クラスで二番目にかっこいい生徒だと性別問わずクラスメートにそう位置づけられていた。
まさか自分まで仮装させられるなんて予想外だったけど。
航也、どんな仮装してくるかな。
目立つこと嫌うし、照れ屋なあいつのことだから、マントつけたりマスクかぶってくるなんてことはなさそう、
「お巡りさーーんっ!!逮捕してーー!!」
自分の定位置なるカウンター内側にいた北見は決して焦ることもヒくこともしなかった。
際どい露出度を誇るセクシーデビルの仮装をした客がカウンターを無謀に乗り越えようとするのをやんわり制し「危ないですよ、お客さん」とそっと窘めた。
かなり酔っ払っているようだ。
グループで訪れ、テーブル席でカクテル片手に盛り上がっていたはずが、ふらふら一人離れてカウンター端の予約席に居座ってしまった。
「そちらは(私的な)予約席なので。予約した方が来られるまでの間でよければ、どうぞ」
胸大きいな、後ちょっとずれたらポロリしそうなんだけど大丈夫か、やれやれ、友達の誰も呼びにくる気配がない。
酔っ払いデビルに絡まれてお酒をつくりつつ北見ポリスがハイハイと返答していたところへ。
「北見さん、お疲れ様……?」
航也が友達を連れて店にやってきた。
白黒ボーダーのだぼっとした囚人服で足元は白スリッポン。
腕は七分、鎖骨が見える襟ぐりの深さ、フロアに少しだけ擦れているズボン裾。
「うそだろ、北見さんもコスプレしてたのかよ?」
あ、かわいい、航也。
航也は自分よりもしっかりめな仮装をしている北見に目を見張らせていた。
北見も北見で、シェイカーを振るのも忘れて囚人コスプレの航也をデレ気味に見つめていたのだが。
「なにこのコかわい! 逮捕しちゃうぞ!」
「んっっっ!?」
「え」
酔っ払いデビルが航也に抱きつくなり、ぶちゅっと、キスをした。
しかも唇に。
正にハロウィンにふさわしい悪夢なる出来事だった……。
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