作者: 石月煤子

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8-春の嵐到来

四月、航也と北見の元に春の嵐がやってきた。 「二人、ちょっと臓器貸してくんない?」 笑えないジョークを携えた、二人にとっての元恋人、メグっちこと恵弥(めぐみ)がやってきた……。 「サラ金の取り立てがしょっちゅうウチに来てうるさくってさ」 危ういくらいの軽々しさに付き合いきれなくなり、未練なく関係を終わらせていた北見は呆れ果てた。 「その調子だと職場にも訪問されてるっぽいな」 「今無職だけど? 前の店、クビにされちゃったけど?」 「……オーナーに気に入られてるんじゃなかったのか」 日曜日の北見宅、ホームバーのカウンターについて北見お手製のパスタを食べながら恵弥は平然と「督促電話がうるせぇって、更新切られちゃった」と答えた。 隣に座る航也は、外見が抜群に優れている元美容師の恵弥にぞっこんだった過去があるにも関わらず、完全ヒいていた。 「コウ君、腎臓って二つあるでしょ? だから俺に一つくれない? 高値で売ってあげるよ?」 「ッ……」 「やだなー。冗談だってば」 メグっち、借金あるって知ったときもショックだったけど。 職場に電話、家に訪問って、結構深刻だよな? 「この間なんかウチの前で別々の取り立て同士が鉢合わせてさ」 「お前、何社に取引あるの」 「六社くらい?」 「どうするつもり、この先」 「んー、特に考えてない?」 頭痛がしてきた航也に反して「ひっさびさにお腹いっぱい食べた」と満足そうにパスタを完食した恵弥は傍らに立つ北見に強請った。 「北見、なんかお酒つくって」 「ちょっと待って、メグっち、ほんとどうするつもり? ちゃんと考えないと」 「コウ君、代わりに考えて。北見ー、お酒ー」 今年で二十九歳になる北見より一つ年下、いい年した大人でありながら危機感がまるでない恵弥の代わりに航也が顔色を悪くした。 「そんでさ。取り立て落ち着くまでココに泊めてくんない?」 説教するのも言い争うのも無駄な体力を使うと最初から諦め、酒を作り始めた北見の代わりに航也がぎょっとした。 「タチ悪いって罵った男に面倒見てもらうのか、メグ」 「なにそれ、プライドないって言いたいわけ? うーん、そだね、割とないかも?」 「いっそ自己破産したら」 「自己破産? どうやんの? お金かかる? 借金なくなる? お酒まだ? 北見早くー」 カウンターに頬杖を突いて上機嫌でいる恵弥を隣にして航也は思う。 嫌だ。 メグっちが北見さんちに泊まる、しかもさっきの言い方だと一泊どころじゃねー、連泊必須だ。 北見さんは面倒くさくて放置したがってる。 でもそれじゃあメグっちは延々とココに居座ることになる。 だってメグっち、どう見ても今すぐ借金返す気ない、居座る気満々だ。 やっぱ、どう考えても、嫌だわ。 「わかった、俺、考える」 大学四年生になって就活に本腰を入れ始め、忙しくなる身であるにも関わらず恵弥の手助けを買って出た航也に、北見は一重の細長い眼をほんの少し見張らせた。 「コウ君、ヨロシク」 以前、自分から告白しておきながら北見を選び、別れを申し出てきた航也をぶん殴ったことがある恵弥はマリブコーラを美味しそうに飲むのだった。

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