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『内定とれねぇ』 師走に入っても内定がもらえずにドン底まっさかさま、就活サバイバルに日々げんなり、卒論にも手がつかずに航也は落ち込んでいた。 年上バーテンダーの北見はそんな恋人を息抜きに誘った。 『は……?』 有休をとっていた北見と平日の昼過ぎに待ち合わせ、詳細は聞かされていなかったが映画か買い物かと思い、駅前へ出向いた航也であったが。 就活地獄に陥ってろくに頭が働かず、ただ導かれるがまま電車に乗り、一時間ほど経過して特急であることに気づいて首を傾げた。 『北見さん、俺達どこに向かってるんでしょーか』 『温泉』 『は……?』 実は前々から予約をとっていた北見。 『就職記念のつもりだったんだけど』 『……どーせ俺なんか落ちこぼれだよ』 『まーまー。今日はそーいうこと忘れて楽しんでよ、航也?』 『……俺、着替えとか何にも持ってきてねーんだけど』 かくして航也はサプライズ一泊温泉旅行に連れ出された。 最初は多少どんよりしていたし男同士で気恥ずかしかったものの、オーシャンビューの大露天風呂に美味しい食事、徐々に気分は上昇していった。 何よりも。 『この柚子胡椒つけたら倍ウマイかも』 北見の優しさが心に染みた。 彼に出会う前、これまでのタチ人生においてこんなにも相手を気遣った覚えがない航也は反省しつつ、サプライズを企画してくれた恋人に内心感動していた。 北見さん、やっぱオトナだわ、すげぇ。 俺のことめちゃくちゃ思ってくれてなきゃ……できないよな……こんなこと。 で。 「堪らなさそうに勃ってる」 現在に至る。 食事後、部屋風呂で急に欲望全開と化した北見に尻ばかり労われる羽目に。

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