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「え、これ」 「今日、バレンタインデーだろ」 「えぇぇえ?」 「?」 まさか北見からチョコをもらえるなんて航也は夢にも思っていなかった。 バレンタインデーにチョコをもらってどうしてそんなに驚いているのかと、北見は不思議そうにしている。 気を取り直して、北見自らリボンを外し、蓋をぱかり。 六個入り、全て違う種類、味だけじゃなく視覚でも楽しめる凝った仕上がり。 一つ、指に摘まんで、ミネラルウォーターで潤っていた唇の前まで運んだ。 「ハイ」 寝起きでぼんやりした頭で餌付けされることに大した抵抗感も抱かず、それに、チョコレートが美味しそうだったので航也は迷わず口を開いた。 ぱくり。 「どう」 「……もぐ……うまい……」 「今、食べたのは、フランボワーズ」 「ふらんぼわーず」 オウム返しした航也の有り余る隙に北見は、むらぁ……を催す。 「もっと。そっちもくれ」 ぱたん。 蓋を閉じてしまった北見に航也はむっとした。 「くれよ」 「もちろんあげるけど。航也は?」 「へ」 「航也は俺にないの、チョコ」 結局、航也はチョコレートを買わなかった。 恥ずかしいし。 らしくないし。 「ないんだ」 「……ねーよ、悪いか」 「野郎の自分がなんでわざわざ買わなきゃなんねーんだ、って、そう思った?」 航也は口内に残る甘酸っぱさを噛み締めつつ斜め下を向いた。 「……か、買おうか、迷ったけど」 「うん?」 「は、恥ずかしいし……だってあんな女子ばっかの中で買うとか……ムリだろ」 「俺は買ったよ」 「俺はムリ」 「仕方ない奴」 「んっ」 背中を屈めた北見にキスされた。 口の中に残っていた甘酸っぱさを攫われる。 甘い風味と興奮を一つにするような。 北見に甲斐甲斐しく口づけられて、柔らかな布擦れの音を立て、喉奥で鳴くみたいに航也は呻吟した。 「んん……っん……ふ」 その後。 真っ昼間から北見はハーフボトルのワインを開けた。 チョコレートに合わせて買っておいた、渋味が控え目な甘口を口に含んでテイスティング、と思いきや自分は飲まずに航也へ口移し。 「んーーー……っお、起き抜けに酒飲ませんじゃ、ッ、んむっ」 「そんないっぱい飲ませないから。でもせっかくだし。ちゃんと味わいなさい」 「じゃっ、じゃあ自分で飲むって……ッ、んむーーーっっ」 甘すぎて胸焼けしそうだ。

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