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第25話
あれから、今日のところは何事もなく無事に授業を終えた俺は、彰と一緒に帰寮した。
部屋に戻ると、今朝のモーニングコールで魁斗さんに言われた通り、調理器具やその他諸々が揃っていたので、とりあえず夕飯を作ることにした。
「え!?何これ!?僕たち部屋間違えてないよね!?」
「ああ。部屋は間違い無いと思うぞ。これは恐らく魁斗さん… 理事長が用意してくれたんだろ。朝電話で宣言してたし。」
「理事長と電話っ!?イチくん実はめっちゃすごい人だよね!?」
何がすごいのかイマイチ分からないが、興奮してる彰は放っておいて良さそうだ。
俺はというと夕飯の支度をしたいので冷蔵庫に向かっていた。
そして俺は気付いた。すごく自然に部屋に馴染みすぎていたので見落としていたが、冷蔵庫が大きくなっている…
今朝までは一般的な家庭用冷蔵庫だったはずだ。
それが業務用、というよりかはアメリカの家庭用冷蔵庫になってる。
つまりデカイのだ。軽くリフォーム級の変化に、流石に俺も驚きが隠せなかった。
「彰、今からちょっと理事長呼ぶから大人しくしてろよ。」
「えっ!?今から呼ぶの!?大丈夫!?」
「絶対来るから黙ってろ。あと10分もすれば来る。」
驚きと困惑で頭がぐちゃぐちゃになった俺は、この状態にした過保護おじさんをメールで呼び出した。
すると宣言通り10分後、マジで来た。
「壱雅!!どうした!?何があった!?佐伯くんに何かされたのか!?」
「違うから!むしろ原因は魁斗さんの方だから!何この冷蔵庫!でかいし!そんなに入れるものないし!コーヒーは俺ドリップ派だって知ってるよね!?コーヒーマシン付きのアメリカンな冷蔵庫欲しいとか言った覚えないんだけど!!!」
「いやいや、壱雅は覚えてないかもしれないけど、去年のクリスマスに集まった時にテレビで流れたこの冷蔵庫、いいなって言ってただろ?だからサイズは小さくなったが用意した!!」
「ねえ、俺ここに2年半しか居ないんだよ!?俺が卒業したあとどうするつもりなの!?」
「それは元々アメリカの別荘で使う予定だったやつを持ってきてるから、壱雅の卒業後は本来の目的通りにアメリカに持っていくよ。」
「なら…いい、けど…!でもほんとにそんなに入れるものないから…」
「壱雅には無くても、他の人にはあるかもしれないだろう?それに壱雅は料理だけじゃなくてお菓子作りもするし、コーヒー豆も冷やしておきたいだろ?その為にはこれくらいのスペースは必要だよ。むしろ小さいんじゃないかと心配してたんだ。」
「小さいとか全然ないから!魁斗さんの考えは分かったけど、次からは俺に一言頂戴!帰っていきなり変わってたらビックリする。」
そう言ってあからさまに不貞腐れた俺をみて、魁斗さんは眉尻を下げた。
バツの悪そうな顔のまま、小さく「ごめんな」って言って優しく俺の頭を撫でる魁斗さん。
その右手のぬくもりに、パニックになっていた頭も落ち着いていく。
親父の手とは違う、経営者の手。俺が小さい頃はよくピアノを弾いてくれた手。
忙しい親父の代わりに遊んでくれたその手に、俺はすっと目を細め、甘えるようにすり寄った。
カシャカシャカシャカシャ
カシャシャシャシャ…
「おい彰、今すぐその連写した写真消せ。」
「うっ、はい。ところで、イチくんと理事長ってどう言ったご関係…??」
「叔父と甥。」
「まさかの血縁!まあ、そりゃイチくんがイケメンなわけだよなぁ…」
「ああ、壱雅のこのルックスは俺譲りだな。」
「違うよ、親父に似ただけ。」
「イケメンは否定しないんだ。」
言われ慣れてるからな。今更謙遜なんかしない。
さて、今日はこのまま魁斗さんが大人しく帰るとは思わないし、さっさと夕飯作りますか。
なんだかんだ言って、寂しくないのはこうやって周りで支えてくれる人がいるおかげだよなって、しみじみ考えてみた。
でも、俺のテリトリーを荒らすのは誰であろうと許さん…!!!
「二人とも大人しく座ってろ!散らかすんじゃねえ!!!!」
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