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第2話

 出発当日。 いつものようにユキが伊織の部屋へ迎えに来る。  夏でも相変わらず、制服と見間違うような、白いポロシャツに黒のチノパン、白いスニーカーといういたって地味な服装で現れた伊織にユキは辟易する。  ユキはというと、派手な柄のシャツに膝下で切りっぱなしのウォッシュデニム、にビーサン。リゾート丸出し。 この不釣り合いな格好の2人で、ユキの父親が経営するリゾートホテルへ向け出発した。 「毎年繁忙期だけ帰って来る息子の幸成と、幸成が連れてきた後輩の高杉くん。せいぜい使ってやってくれ」 経営者であるユキの父親が、従業員一同を集めて紹介している。傍らにはユキと、伊織。  あれ?ちょっと、なんか…  不安げに伊織がユキを見上げると 「お前も働いてもらうぞ。まさかタダ飯食うつもりで来たのか?」 「や、ていうか、仕事とかしたことないし」 「じゃ今日がバイトデビューだな!」 ニカッと笑うユキに言葉を失う。 「なんだユキ、話してなかったのか」 ユキの父が呆れる。 「とりあえずお前はこれに着替えて玄関に立ってろ。客が来たらニッコリ笑って『いらっしゃいませ』これだけだ」 ユキからホテルのベルボーイのような制服を渡され、雑に仕事内容を説明された。 「ゆ、ユキは?」 「俺は裏方。じゃな!」 さっさと行ってしまった。 大柄で強面のユキは表には出せないから、とユキの父が笑った。  ユキに言われた通り、伊織はひたすら挨拶ロボットのように、お客さんにいらっしゃいませを言い続けた。 「あら、こんなニ枚目のボーイさん居たかしら」 長期滞在らしい年配の女性が声をかける。 「きょ、今日からアルバイトで」 しどろもどろで答えると 「頑張ってね」 そう言うと、女性は伊織の胸ポケットに何かねじ込んで建物に入って行った。 何だろうとポケットを探ると… 「いきなりチップもらってんの。チップてかおひねりだなこりゃ」 ユキは頬杖をつき、面白くなさそうに父親に報告している。 伊織はお札を握りしめ、申し訳なさそうに俯いて突っ立っている。 「チップは君の働きに対する報酬だから、君がとっておいたらいいんだよ。初日からよく頑張ったね、お疲れ様」 初日から、1万円の臨時収入。

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