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第8話
「疲れたろ。うちの家族騒がしいからな」
会食が終わり、部屋へ戻る。
リゾートホテルには、夏休みや冬休み、住み込みで長期バイトにやって来る学生も多い。
ユキと伊織はそんな人たちのために借り上げられている、マンスリーマンションの一室に寝泊まりしていた。
「ううん。楽しい家族で羨ましい」
「そうか?俺は結構疲れたぞ。フロ入って寝るわ」
「あ、待って」
伊織がいそいそと部屋の片隅から何やら紙袋を持ってきた。
「これ、…ごめん、すごくつまらないものだけど…」
「え…」
恥ずかしさいっぱいで紙袋を差し出す伊織に、ユキは面食らったまま。
「…お誕生日、おめでとう」
崇高なまでの笑顔で、伊織がユキにやっと言えた。
当のユキは固まったままである。
「まさかお前からもらえると思ってなかったから、ビビった。…ありがとな」
まだドギマギしながら、ユキは伊織を抱きしめた。
「開けていいか?」
「う、うん、でも、ほんとにくだらないものだから、他に何か欲しいものあったら言ってっ」
とうとう伊織は背を向けてしまった。
がさごそと紙の包みを開ける音。
そしてしばらくの間…
「これで今夜はベロベロんなるまで飲んで、そんでまた好き好き言いながらヤリまくりたい、と」
「えっなんでそうなるんだよ!」
「だってこれ、ビアグラスだぞ」
クラシカルなデザインの、銅製の、ペアのビアグラス。
ここだけの話、副支配人へ贈ったタイピンの方が値段が高いのだが、伊織は気づいていない。
「えっ、そうなの?!僕はただ一緒に使いたいって思っ」
「めちゃめちゃ嬉しいって。どこまでお前に溺れちまうんだろな、俺は」
またユキが伊織を抱きしめる。今度は強く強く。
伊織もきつく抱かれてぼうっとしてくる。
「ユキ…いつもそばにいてくれてありがとう」
「バカ、それはこっちのセリフだ」
2人は何度も啄むようなキスをした。
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