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第13話

 5日間の折り返し、その日の午後は休みをくれた。 こちらに来てからというもの、朝から夕飯までずっと別行動だったから、久しぶりにゆっくり2人で過ごせる時間を手に入れることができた。 「今夜近くの神社でお祭りがあるから、よかったら行ってみたらどう?」 ユキの母が2人に言った。 「高杉さん、一緒に行こうよ!」 花音がすかさず誘い、伊織は返事に困りユキの方を見る。 「俺らは2人でまわるわ、悪りぃな」 ユキが察して代弁するが、 「えーっそんなむさ苦しいクマみたいなのより私と行った方が楽しいって!」 なおも食い下がる花音に周りは吹き出した。 伊織も笑いをこらえながら 「ごめんね、花音ちゃん」 と詫び、ユキと部屋から出て行った。 「そこまで笑うこたねえだろよ」 ユキはジロリと伊織を見下ろす。 「あは、ごめん、だって、クマだって、ね、クマ」 まだ伊織は腹を抱えてヒーヒー笑っている。ツボに入ったらしい。 「お前も俺のことクマみたいって思ってる?」 爆笑する伊織も珍しかったが、少し拗ねたように問うユキもまた滅多に見られないものだった。 そのおかげで伊織も幾分落ち着きを取り戻した。 「んー、クマ、ではないかな…オオカミ?」 首をひねり考え込む仕草をして答えを出した。 「オオカミ?」 「うん、いっつも食いちらかされちゃうから、さ」 無邪気にニコニコしている伊織。 「…こっの無自覚系小悪魔が…」 また伊織に理解不可能な言葉を発し、ユキは悔しそうに舌打ちした。  夕暮れ。 2人は言われた通り祭りに行く準備をしていた。 ユキの母が浴衣を用意してくれ、着付けまで呼んでくれた。 伊織は自分で着られるが、そこからあまり深い話を突っ込まれたくなかったので、黙って着せてもらうことにした。 「まあ、やっぱりよく似合うわねえ。ねえユキ?」 「ああ…」 母の問いかけへの返事もそこそこに、ユキはぼうっと伊織に見とれていた。 伊織はユキの母にお礼を言うと 「どしたの、行こ?」 と早速連れ出した。 「見とれてた」 部屋を出てからボソッとユキが言った。 伊織は何も言わずにはにかんで、浴衣姿の2人はホテルを出た。

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