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第14話
ホテルから少し歩いたところにある神社で開かれていた祭りは、そこそこ規模が大きく、屋台もたくさん出ていた。
「ねぇ、こんな、デートっぽいデートって久しぶりだよね」
伊織が少し照れながらユキに話しかけた。
「だな。何か食うか?」
「じゃ、りんご飴!」
伊織が心なしかはしゃいでいるように見える。
こうやってるとまだまだ子どもだな、とユキは目を細めた。
りんご飴を買ってもらいご機嫌に食べる伊織の唇は真っ赤に染まり、飴でてらてらと光り、とんでもなく艶っぽい。
大きなりんごに齧り付く時も、行為中に自分が噛まれる時を彷彿とさせてゾクゾクする。
屈託無い表情なのに、りんごを齧り、時折舐めり、口を紅に染める伊織は、本当に魔性だとユキはガン見しながら思っていた。
その視線に気づくと伊織は
「あ、ごめん、ユキも食べる?」
りんご飴を欲しがっていると勘違いし、りんご飴を差し出してきた。
「食いてえのはそっちじゃねえよ…」
「え、何て?」
ユキは赤くなって顔を背けた。
的当てやスマートボールでユキの実力を発揮したり、かき氷を食べたりと、楽しい時間を過ごしていると、間も無く花火が上がるとのアナウンスが。
「見に行くか。秘密の特等席があるんだぜ」
ユキは伊織の手を取り歩き出した。
身体は何度も繋げていても、手をつないだのなんて、初めてじゃないだろうか。
前を歩くユキも、後ろを歩く伊織も、お互い顔は見えないけれど、赤かった。
神社から少しホテルの方向に戻ったところに、従業員専用の駐車スペースがある。
「実はここからの方がよく見えんだ」
急にあたりが人気もなく静かになると、今まではしゃいでいた熱が一気に冷める。
持っているヨーヨーやお面なんかが、なんだか恥ずかしく思えてくる。
一発目の花火が上がった。
「ほんとだ、よく見える。きれい」
伊織は目を輝かせた。
花火を見上げるその横顔は花火に赤く染められ、もっと高く、とすうっと伸び上がった細い首筋には、男性であることを主張する喉仏がくっきりと浮き出ている。
きれいなのはお前だよと心の中で突っ込みながら、ユキも花火を見る。
「一緒に観れて嬉しい」
伊織がユキにもたれかかる。
「俺もだ」
ユキも伊織の腰に手を回す。
その後2人は何も話さず、ただ一緒に花火を見ていた。
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