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第17話
明日の昼には寮へ出発するので、丸一日いるのは今日が最後。
さて今日はどんな仕事をするのかと思っていたら…
「今日はみんなで海にでも行ってこい。ボートを出させてやる」
はなからバイト経験もろくにない高校生の労働力になど、大してあてにしていない。
ユキを帰省させる口実であり、伊織が長居するのに気を遣わせないための計らいなのである。
ユキの父はこの日、和成、花音、ユキ、伊織で、海に遊びに行くことを提案。
せっかくリゾート地に来たのだから、リゾートして来い、と。
「お弁当も用意したわよ」
ユキの母もにこにこして口添えする。
「やったー!高杉さんも一緒だー!ね、カズ兄、ユキ兄、一緒に海とか超久しぶりじゃない?!急いで準備してくるね!」
花音は喜び勇んで部屋を出て行った。
和成は特に嬉しくもなかった。この歳になって、兄弟で海にいっても。
というか、またラブラブを見せつけられるだけだ。
だがおそらく、保護者的な役割を任されているんだろう、と渋々準備しにいった。
「どうする、行きたくなかったら別に」
さきほどから無反応の伊織にユキが気遣うと
「行きたくないわけでは、ないんだけど」
…
「お前、海にも行ったことないってか?!」
聞いていたユキの両親もびっくり。
「小さい頃家族で行ったりしなかったの?」
「母は昔亡くなりましたし、父は仕事が忙しかったので」
伏し目がちな伊織の背中をユキは勢いよく叩いた。
「んじゃ今日が海デビューだな!準備しようぜ」
背中を押して歩き出す。
「俺がお前にいろんな初めてを見せてやるからな」
耳元で囁かれ、伊織は頬を染めて頷いた。
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