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第18話
5人乗り程度のボート(操縦士付き)に4人は乗り込み、少し沖にある小島に降り立った。
島と言っても家1軒分ほどの広さで草木しかない。周りの海の色はとても美しくて、地元の人しか来ない穴場なんだそうだ。
柘植三兄妹はマリンスポーツはお手の物で、ジェットスキーや素潜りなど、思い思いに海と戯れている。
「やっぱり、底が見えないのは、怖いな」
海デビューでいきなり沖に連れて来られれば無理もない。
伊織はボートの上で三角座りして景色を眺めている。
ひとしきり遊んだ兄妹たちも戻ってきて、島に上がって母のお手製弁当で昼食。
伊織には縁がなかったおふくろの味、家庭料理がこれでもかと詰まった三段重。
ただのおむすびさえとんでもなく美味しく感じる。
兄妹は軽口を叩きながら箸をつけている。
こんな家族のつながりを、生まれた時から当たり前に与えられて来た者と、そうでない者。急に疎外感に苛まれた。
昼食もそこそこにまた和成とユキは潜りに行ってしまった。
島に残された花音と伊織。
「あーあ、ユキ兄完全に高杉さんのこと忘れてるよねー。ま、海男だし仕方ないか」
昔からユキは海が大好きで、夏休みはほぼ毎日のように一日中海に浸かっていたそうだ。
「僕も、入ってみようかな」
ユキが大好きだと聞いて、ようやく海に入ってみようかと思えた伊織。
立ち上がった伊織のウェットスーツの袖を、花音がつかんだ。
「ね、ちょっと待って!高杉さん、今付き合ってる人、いるんだよね?」
だよね、とはどういうことだ。
誰から何を聞いたんだ?
伊織は訝しんだ。
「だよね、とは…?」
「ユキ兄から聞いたの、年上ですごくおっかない人と付き合ってるって!でも超ラブラブだからお前は諦めろって、でも私ね…」
伊織は吹き出してしまった。今からおそらく告白しようとしていた花音を遮って。
「ゆ、ユキがそう言ったんだ?」
笑いすぎて目に涙を溜めながら伊織が花音の横に座り直す。
「うん、だけど私」
「はいそこまでー」
いつのまにか和成と戻ってきていたユキが、手をパンパンと叩きながら目の前に現れた。
「花音、茶くれ」
ユキが伊織の、花音とは反対どなりに座り、さりげなく花音を追い払う。
「お茶なら僕が」
「いいから」
立ち上がろうとした伊織の肩をユキが押さえる。
「ほったらかしにして、悪かったな」
次はユキと伊織が海に入り、和成と花音が残った。
「何話してたの」
しょげこんでいる花音に、和成は優しく問う。
「…もうカズ兄もわかってるでしょ、私が高杉さんのこと…」
和成は静かに頷き、続きを促した。
「だから、言うなら今だって思ったんだけど、言わせてもらえなかったって言うか」
弟も妹も大事。
和成は少し複雑な心境だ。
弟妹がライバルとなる三角関係なんて。
「高杉さん、付き合ってる人がいるんだって。そりゃそうだよね」
和成が目を丸くした。
高杉くんが言ったのかときくと、ユキからだと。
花音は先ほどのユキの言葉をまた伝えた。
すると和成からも伊織と同じ反応が返ってきた。
笑い転げる和成に、花音はムッとした。
「もう、何がおかしいのよ!可愛い妹が失恋したってのに…何よ、カズ兄も高杉さんも、そんなに爆笑することないじゃない…」
半べそ状態の花音の頭を優しく撫で、和成はまだ笑いがおさまらなかった。
ユキがそんなこと言ったのか。
妹にまで牽制して…あいつ、本気だな。
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